【減税小噺】芝浜特会
元大蔵官僚の雄二郎は一身独立してついに国政政党の党首になった。しかしこの雄二郎、支持者からの信頼は厚いのだが、党勢拡大に悩んでおり、政策実現がなかなかできないのであった。
そんなある日のこと。
財務省「ちょいとあんた、早く起きて予算委員会に行っておくれよ。資料は秘書の人に渡してあるんだから」
雄二郎は首相の顔を思い浮かべながら、重い腰を上げて国会に向かった。
ところが委員会はまだ始まっていない。
時報が鳴るのを聞いた雄二郎は
「財務省のやつめ、日程を勘違いしてたな。」
仕方がないので委員会室を眺めていると、机の上にバインダーが置かれていることに気づいた。手に取る雄二郎。中には外国為替特別会計の帳簿が入っていた。含み益が円建てで40兆円もある。
雄二郎はバインダーを回収して党本部に戻った。再び委員会室に戻り、会議を適当に済ませ、興奮止まぬまま政治資金パーティーへ。支持者にビールを注いで周り、自身も乾杯で強かに酔っ払った。
党の執務室で翌朝目を覚ました雄二郎。
財務省「あんた、政策のための財源早く見つけないと、次の予算委員会が始まっちゃうわよ」
雄二郎「何言ってんだ。昨日持って帰った外為特会があれば教育無償化だってすぐにできらあ」
するときょとんとした顔で
財務省「何寝ぼけたこと言ってんだい。為替介入の準備資金を溜め込んでる政府なんてあるわけないじゃないか」
雄二郎「夢?そんな、あんなはっきりとした夢があるわけが」
財務省「あんた、古巣を疑うのかい?」
雄二郎「そうじゃねえ、いやすまない。なかなか政策を実現できなくてどうかしちまったみたいだ。一からやり直そう」
それから雄二郎は党勢拡大に奔走した。数年ほどでついに衆議院第1党、すなわち与党になった。首班指名で首相になった。野党時代から徹底的な歳出改革を訴え続け、無駄な省庁を廃止して減税を実現した。
そんな冬のある日。
財務省「今日はあんたに見せたいもんがあるのよ」
といい、古びたバインダーを雄二郎の前に出した。
財務省「数年前にあんたが見つけた外為特会は夢じゃなかったんだよ」
雄二郎「なんだと!このやろう」
財務省「ちょっと聞いておくれ。あの時おまえさんが外為特会で政策を実現するんだって言うから、心配になって、減税会に話を聞きに行ったんだよ。そしたら、拾った金なんかで財政出動したら政府が余計に大きくなって自由が損なわれるって言うから、あんたがちゃんと財政改革やるまで隠しとくことにしたんだ。官僚に嘘つかれてさぞ腹が立つだろう?さあ、やりたがってた福祉政策を存分にやっておくれ」
雄二郎「うん、いや、今日の政権があるのはお前のおかげじゃないか。ちゃんと歳出改革もできた。改めて例を言うぜ。さて」
雄二郎は予算の叩き台を引っ張り出して
「ついに、念願の教育無償化政策、防衛費増強を外為特会で……いや、やめておこう」
「また大きな政府になるといけねえ」
外為特会はウクライナへの支援金7000億円の予算に充てることにした。
おしまい