没入型カルティエ
「カルティエ、時の結晶」展。
公式サイトのリッチな作り込みからも期待値が爆上がりしていましたが、そんなもの悠々と超えた感動を届けてくれました。
物の美しさに頼らず、それを最大限に魅せてくれる会場構成と什器、照明デザインのおかげで、かなり深化された世界観の中を進んでいく本展。イマーシブの一つの正解ここにありけりと思ったので忘れないうちに個人的な心打たれポイントを書いておきます。
はじめまして、ジュエリー
しがない27歳が言うのは生意気だけど、多くの人にとって、ジュエリーの美しさを生涯で一番実感できる機会なんじゃないかと思う。
こんなに丁寧な演出で、こんなにまじまじと近くで眺められることってない。
ジュエリーが美しいのは当たり前。
それはなんとなく知っているけど、他人事じゃなくて、こんなに、本当に、美しかったのか、とたくさんの人が思うんじゃないだろうか。
煌びやかな世界のものだから美しいのではなく、悠久の時を経て、揺るぎない美術として君臨しているからどんな時も美しいのだね。
文字にすると当たり前なんだけど、「ジュエリーがこんなに美しいって知らなかった」というのが私の感想になります。
行った人はどう思ったのか、めちゃ聞きたいです。
はじめまして、自然物
地底に眠り続ける宝石たち。そのほんの一部が人にその神秘の一端を覗かせている。地底に彷徨い込んで宝石と邂逅する。
図録の杉本博司の言葉が強い。
会場内の木も石も強い。「ナチュラルな素材」が持たらされがちな弱いイメージはここには無くて、宝石の出身地として堂々としている。
(樹齢1000年の屋久杉と聞くとそりゃそうかとは思うけど、それを知らなくても圧倒的です)
プロローグを抜けると自然物との展示が始まる。木の匂いをかぎながらジュエリーを鑑賞できるって不思議だな、と最初ずいぶん戸惑ったけど、間仕切りの麻の使い方もおもしの石もぴたりとはまっていて余計戸惑った。ふと上を向いたら空間内の麻の重なりも美しくてまた戸惑った。
その後の凝灰岩の積み重ねはもう言わずもがなで、インタビューにあった物質の起源へと遡っていくという言葉、こんなふうに着地させることができるのか……と戸惑いました。
ジュエリーが気の遠くなる年月を孕んでいることを、こんな風に伝えることができるんだなあ。
新素材研究所様々です。
今回みたいにまるまる統括するのはだいぶ豪華で大変だと思うけど、もっと見てみたいなぁ。
ブランドと建築家のコラボでいうと、シチズンと田根剛さんのインスタレーションが有名ですね。
センキュー音声ガイド
聞きやすい音声ガイドは無料。
(惜しいことに)目の前の情報を噛み砕くのに必死であまり使いこなせなかったけど、やっぱり会場内の説明キャプションを無くせるのは良いですね。耳にかけても全然痛くならないタイプのイヤホンなのもありがたい。
内容的には、最初に大きな思想を伝えてからそれぞれの詳細な背景に入っていく、という流れが分かりやすいし、バチバチにこだわってる什器の説明までしてくれて楽しかった。対象の作品に近づくと自動で教えてくれるので楽です。順路に対して若干ずれたりするけど気にならない程度。
どうでもいいけどスマホっぽい精密機器な割に返却方法がラフでちょっと不安になった。
坦々麺と、思い出す「彼女と。」
観終わった後、放心しながら蒼龍唐玉堂*で坦々麺をすする。羊肉とフェンネルの餃子も食べる。だってとっても疲れたから。
*国立新美術館からすぐの中華。立地の割にお手頃かつ一人でも入りやすい。
カルティエといえば原宿のポップアップイベントもカジュアルで楽しかったし、そこでの試着体験もとっても嬉しかった。最近ブランドの無料ポップアップ乱立してるけど(全部行ってるわけではないけど)その中でも特に面白かったと思う。
そっちはまたベクトルが違うので、今回比較するとすれば昨年同場所で開催されたエルメスのが思い浮かぶ。
そのときの感想はこちら
https://note.mu/hakobox/n/n305bd0e07537
どちらもブランドの世界観をこんなかたちで共有してくれてありがとう、という気持ちですが、個人的にはトータルの充足感は今回が圧倒的に勝りました。(彼女と。は無料だったので比べるのもあれですが)
とにかく今回の作り込みで入場料1600円なの、とても良心的だと思います。
最後の章だけ撮影可能なのも、絶妙な配慮ですね。
企画、実現してくれた方々に感謝を込めて。