半蔵門ブログ 12/24(行き) 「たかが」

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自分史上最高に気持ちいいセリフを放ったという記事です。

9月9日、縁起が良いとされる奇数の中でも最大の9が2つ並ぶ日に何が起こったか覚えてる人はどれだけいるだろうか。ところで10進法は下1桁で偶奇が判別できるけど、9進法だったら「10」や「100」も奇数なんだよな。各桁の和が偶数か奇数かで判断するしかなくて大変そう。そのかわり下1桁を見るだけで3の倍数かどうかわかるメリットがあるな。
まあとにかく9月9日は、僕にとっては忘れもしない、令和時代の始まりとフスマ家文明の終わりを告げるクソデカ台風15号がやってきた日だ。

8日の夜の時点で、翌日の予報は晴れだった。台風の雨風におびえながら眠りについた時は、台風一過の朝をどう過ごそうか、朝イチで散歩でもしてみるか、なんてことを考えていた。翌朝目を覚ますと、自宅は電気も水道も通らないただの箱になっていた。付近一帯が停電し、千葉県の都市機能は完全に麻痺していた。当然電車もストップ。バイト先にはすぐ休みの連絡を入れた。そしてこの停電、15日まで続いた。地獄!

コンビニにカップ麺や水が入荷したのが3日目の夜。自衛隊が給水に来たのが4日目。それまでの丸3日を、台風の前に買い込んでおいた水とカップ麺だけで乗り切ることになった。風呂なんて当然入れないし、停電してない地域の銭湯に行っても超満員で入れないし、日が暮れたら部屋の中は真っ暗になるから寝る以外することないし、そもそも頼みの綱のスマホ(なんとか電波が入った)もバッテリーが有限だし。3日目の最高気温は36度。生きた心地がしなかった。

が、一応生命線があった。自動車である。冷房はあるし、シガーソケットからスマホを充電できるしで、とりあえず車に乗ってエンジンをかけてればれば死ぬことはない。
しかしガソリンも有限、ガソリンスタンドは軒並み停電で止まっている。いよいよガソリンが切れかかっていたので、仕方なくガソリンスタンドを求めて車を走らせた。気分ははじめて自転車で遊びに行く小学3年生。このとき車購入後3ヶ月、通学にしか車を使っていない初心者ドライバーにとっては大冒険である。

倒木で通れなくなった道を回避しながら運転すること約1時間。ラジオで災害情報を聴きながら、ナビを使って隣町のガソリンスタンドを片っ端からあたるも、どれもこれも営業を停止していた。
停電した街の中で唯一電気や冷房を供給してくれる、ガソリンはいわば自分の命そのものであった。
その命が今尽きようとしている……。帰りのガソリンも残っているかどうか……というところで、視界にデジタル数字の「142」が飛び込んできた。「レギュラー 142 円/ℓ」じゃん!あれほどまでに待ち望んだ営業中のガソリンスタンドが!目の前に!
個人経営の、車一台分しかスペースのない小さなガソリンスタンドだった。迷わず右ウインカーを出して停車すると店主のおじさんが「どうされますか?」と聞いてきた。セルフじゃないガソリンスタンドを使うのは初めてだったが、言うセリフは完璧にわかっていた。

「レギュラー満タンで!」

給油してもらいながら、安心から全身の力が抜けるのを感じた。たかがこのセリフに、僕の停電の苦労とそこからの解放の喜びが全て詰まっていた。まあ家に着いた時にはとっくに電気復旧してたんですけどね。

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