#半蔵門ブログ尸[ホロウ] 「残留思念」
渋谷から代々木まで山手線、そこから錦糸町まで総武線。JRだけで完結する通学ルートだが、代々木-錦糸町間の総武線が帰りの時間はたいてい座れなくて定期の取得は避けていた。半蔵門線の定期が切れかかったある日、渋谷から代々木を通り過ぎて新宿まで行き、そこから総武線に乗るルートを知った。総武線は新宿で多くの客が乗り込むから、早めに並んでおけば案外座れる。
同時期に終了した銀座線渋谷駅の改修では乗り換えがきわめて面倒になっていたこともあって、少し考えた末、次の定期はJRにすることにした。赤坂見附のひとり席のあるガストにいけなくなるのは寂しいが、秋葉原や御茶ノ水が定期券区間内なのが嬉しい。
半蔵門線の定期が切れる1月14日。僕は御茶ノ水での用事を済ませ、総武線で錦糸町まで向かった。御茶ノ水から少し歩くと神保町でおいしいカレーが食べられるが、なぜかその日は行く気になれなかった。
錦糸町駅の総武線ホームにはカップで出てくるタイプのコーヒーの自販機がある。帰ってからレポートを書く必要があったので、眠気覚ましにと一杯購入した。こういう自販機のコーヒーはうまいけどコーンスープは味が薄いんだよな…なんてことを思いコンコースへの階段を下る。総武快速千葉行きに乗り換えよう、そう思いながら少し残ったコーヒーを飲み干すべく、蓋を外してカップを呷った。
次の瞬間、僕は半蔵門線のホームに立っていた。一瞬の動揺のあと、すべてを察した。思えば、最初の記事を書いた時点で運命は確定されていたのだ。半蔵門線でブログを書いた時点で、意識は半蔵門線の一点に根を張る──本州で人間が到達できる最も標高の低い場所、住吉駅に。
財布から定期を取り出して眺めると、そこには有効期限の表示はなく、本来それがあるべき場所には紫色の大きな渦が書かれていた。そっと指でなぞると、視界が暗くなり、耳に閉塞感を覚えた。それが収まった頃には、僕はもう半蔵門線から出る必要がないのだとはっきり理解していた。いちだんと重くなったSuicaを押上げて真上にかざすと、Suicaは三角形の粒子に砕け散り、少しずつ丸くなって消えた。
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