【東京/グルメ】絶滅危惧種「味の街」を探して〈成城フルール〉へ(前編)
成城学園はセレブの町。ステレオタイプだけど、私は成城という町にそんなイメージを持っていた。ところがどうだろう。駅前にびっくりするような都市秘境があったのだ。その名も〈成城フルール〉。
これからは親しみをこめて、フルールと呼ぶことにする。
フルールはかんたんにいうと駅前雑居ビルだ。たんに雑居ビルというだけなら都会にも郊外にもたくさんあるが、フルールには「味の街」という飲食店街が残っていて、その看板のつくりや入口の雰囲気が、じつにすばらしいのだ。
私がはじめてフルールに行ったのは、去年2015年の夏だった。
今年の夏に発売予定の八画文化会館叢書vol.07 『矛盾不純~八画文化会館OFFICIAL FANBOOK』という本を一緒につくってくれているアートディレクターの小磯竜也さんの仕事場にうかがった際に、近場だったので寄ったのだ。
フルールをじっくりと鑑賞したあと、小磯さんとフルールの話をした。
▲2015/8/10(月)に撮影した〈成城フルール〉の入口
「あそこ、気になるよね」と。
その話をおぼえていてくれた小磯さんから、先日こんなDMをもらった。
それはたいへんだ。しかし看板の実物はとても大きくて重そうである。それがいい味わいなのだが、現実的にかんがえると引き取るのは難しい。
そう、現実的にかんがえてしまうと、昭和のガジェットを街並みのなかで維持するのはとても難しいのだ。
私はフルールについて、もっと知りたくなった。
勝手に雑居ビルだと思ってしまっているけど、これはデパートや百貨店なのかもしれない。高級住宅街の駅前の一等地で、旧式のスタイルで営業しつづけるのはたいへんだろうに、なぜ時代にあわせずに生き残ってこれたのか。いつどんな人がつくったのだろう。「味の街」って、いったいなんだろう?
早くしないと撤去されてしまうので、あせってWEB検索してみたが、公式HPはなく管理者や取材の依頼ができそうな情報も見当たらなかった。入居中のテナントに訪問した人の感想が書かれたブログが何件かヒットするだけだった。
謎だらけの成城フルール「味の街」に、とにかく行ってみることにした。
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【目次】
1. 地元民からも忘れられて ※前編はこの章のみです
2. 看板を下ろす日
3. 見えなくなった「味の街」を探して~3階〈釜めし成城〉にて~
4. 見えなくなった「味の街」を探して~2階〈喫茶シュベール〉にて~
5. 管理しているところがわかった
6. 消えゆくニッポンの味文化
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1. 地元民からも忘れられて
▲1日平均乗降人員は86,518人(小田急電鉄HPより)
日曜の昼どきの小田急線「成城学園前」駅は、混雑していた。〈成城コルティ〉という立派な駅ビルがそびえたち、便利そうである。
▲2006年オープンの駅ビル〈成城コルティ〉
コルティの1階は〈OdakyuOX〉という小田急グループの食品スーパーなどが入り、2階は〈山野楽器〉や〈三省堂書店〉、〈KEYUCA〉などの雑貨や文化的施設ゾーン、3階はクリニックや学習塾、4階は屋上庭園(オリーブの庭・雑木林の丘)と〈グランファミーユ・シェ松尾〉などの高級テナントが入居するレストランフロアになっている。食事をするところには「味の街」のような統一名称の表記は見当たらず、案内看板は「CAFÉ&RESTAURANTS」という名前になっていた。
▲〈成城フルール〉は成城学園駅前の北口を出てすぐの駅ド正面にある
Wikipediaで「成城学園駅」を調べてみると、北口の主要施設のなかに〈成城フルール〉の名前はない。ネット上ではないことにされているが、地元の人にとってはどういう存在なのだろうか?
「味の街」の存在が地元でどのぐらい定着しているのか、街行く人に聞いてみた。〈成城フルール〉というビルの名前を伏せて「味の街」という言葉だけでどれぐらいピンとくるのか調査開始。
1人でうろうろして見ず知らずの人に声をかけるのは、かなり憂鬱だったため「やぎろぐ」というブログの記事「43歳のおっさんのナンパに2時間付き合ったら友情が芽生えた話」を読み直して気合を入れ直してから声かけスタート。
1人目。小さなお子さんを連れた30代ぐらいの女性に声をかけてみたが、わからないとのこと。年齢が若過ぎたため、“味の街世代”じゃなかったのかも。
2人目。「あぁ味の街なら若い時分にはよく通ったもんじゃて。フルールの上じゃよ」などと、ほしい答えを言ってくれそうな人を狙い撃ち。地元に長く住んでおり、成城の生き字引と呼ばれてそうな古老イメージで人探し。
おっ!あの人いってみましょう!
▲携帯電話に夢中の、法事帰りのじいちゃんゲット
「あのー、この辺に味の街があるみたいなんですけど、ご存知ですか?」
「味の街? ほぉぉ~」
(カモン若いころよく通った話!)
「知りませんね」
あからさまに残念な顔をした私をみて、じいちゃんはつけたした。
「ほら、わたしは●●●に住んでるから」
成城駅が最寄駅の●●●という名前を出し、むしろ成城圏内エリアに住んでることが判明。やっぱり地元のじいちゃんであることは間違いないようだ。
「……えーと、じゃあ味の街でごはん食べたことはないんですかね?」
「ここに来ると、ごはんはこの上(成城コルティ)で済ませちゃうの」
おーーい!
「地元の古老は、なんでも知っていたのだ――」みたいな、ちょっといい話にまとめたいという私の浅はかな気持ちは粉々である。
レトロは一筋縄にはいかない。
「きっと懐かしいと思っているはずだ」とこちら勝手に思っている人(その土地に昔から住んでる人とか)が、もうたいして気にも留めてなかったりする。
じいちゃんは携帯をいじくりまわし、楽しげに電話をしていた。私は見たことのない昭和を追って、やっきになった。
3人目。こうなったら、交番で聞きます。迷ったふりして「味の街ってどこですかぁ?」作戦でいこう。
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