私はあなたとは違っていい大人なので

 先日、フードコート内にある某チェーン店でテイクアウト商品を購入した。財布の中にカードを入れたかったので、たまたま空いていた近くのテーブルの上にバッグと商品を置いた。財布にカードを入れ、バッグに財布を入れて帰る準備が出来たのでフードコートから出た。

 フードコートから出た約10秒後、商品をテーブルに置いたままだったことに気づいた。私は高校三年生の時にスマホで同じようなことがあったので(未だに見つかっていない)、その時の二の舞にはなるまいと急いでフードコートに戻った。しかし、テーブルの上に置いたままであったはずの商品は既になくなっていた。急いで店員さんの元へ行き忘れた商品が届いていないか確認をしたが、「ここには届いていないですね」とのことだった。たった10秒の隙に購入した商品が何者かによって盗まれてしまった。しかし、たった5、600円のハンバーガーセットが手元からなくなったくらいで怒り狂うほど心に余裕のない大人にはなるまいと思い、「まぁチェーン店が揃ったフードコートにこんなに若者などがたくさんいたらそういうことをする人がいるというのもたかが知れているか」「私はあなた(盗んだ人)とは違っていい大人なのでこれくらいの事で心の余裕をなくすことはありませんよ」と半ば諦めたように考えた(見下し、と言った方が正しいのかもしれない)。以前お金持ちの経営者の方が、「食事をするのにそこそこ良い値段のするお店を選ぶのは魔除けのため(=それなりのお店にはそれなりの人しか来ない)」というようなことを仰っていたのを思い出した。確かに、他人が買った5、600円のハンバーガーセットを盗んででも食べたかったほど飢えている或いは自分ではハンバーガーセットにたかが5、600円すら支払うことが出来ないほど経済的に余裕のない人は高級フレンチなどには行くはずがない。一応事の経緯を説明すると、心の優しい店員さんは少し時間を置いてから私が先程注文した商品を無償で提供してくださり、無事にハンバーガーセットをテイクアウトすることに成功した。

 この出来事が起こった当時は、予想外の出来事が起こると腹立たしくなっていた昔の自分と比べて自分は大人になったなと自己陶酔していた。しかし改めて考えてみると、怒り狂うことはなかったにしても、他人を見下すようなことを思うようでは私はまだ半人前だ。実際のところ「私はあなたとは違っていい大人なので」と思って良いほど私はいい大人と言える立場ではない。そもそも、自称「いい大人」ほどろくな大人ではない。このような他人を見下した考えをしない人間こそいい大人ではないのだろうか。当時の私は「私はいい大人なので」と自分に言い聞かせて他人を見下して自己陶酔をすることによって怒り狂うのを阻止することしか出来なかった。21歳にもなって恥ずかしい。早くいい大人になりたい。


※この記事は2021年7月24日にALISに投稿されたものです


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