俺はもののけ姫が好きなんだよ

※ネタバレ含みます

「俺はジブリでもののけ姫が一番好きだ。」

あまり面識のない者同士の飲み会などでしばしば討論される『ジブリでどの作品が好きかQ&A』

皆様も何度かこの質問をされた、またはした経験はないだろうか?

“魔女の宅急便”と答える女子に相槌を返し、

“風の谷のナウシカ”と答えるオジサンに同調し、

“ゲド戦記”と答えるトリッキーな後輩に「渋いね!」と笑顔を向けつつ(こいつとは距離をおこう)と内心戦々恐々とするアレである。(個人の感想です)

所謂、手軽にコミュニケーションをはかれるツールであり、その人の趣向をなんとなく知ることができる。

「俺はジブリでもののけ姫が一番好きだ。」

そのすべての機会に僕はこう答えてきた。

もののけ姫が公開されたのは1997年7月。

95年の阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件。

96年には病原性大腸菌「O-157」の大流行などが続き、

世の中はネガティブなニュースと、鬱屈した雰囲気に包まれていたのを幼いながらも覚えている。

そう、あの97年だ。

世の中のことを「カルピスウォーター」くらいには甘いもんだという盛大な勘違いをブチかましていた葉加瀬少年・無属性(僕)は

友達と大阪は梅田の劇場までこの大作アニメーション映画を観に行っていた。

上映時間まで劇場近くのゲームセンターで時間を潰した。

惣流アスカラングレーのキーホルダーをゲットしたくて数百円をドブに捨てたり、友達がプレイする「キングオブファイターズ」を横目に、島崎和歌子のポスターが景品のクレーンゲームを見て「誰が欲しいねん」と軽度の毒を吐いたりしていた。

97年は春に「エヴァンゲリオン劇場版 シト新生」

夏に「もののけ姫」、「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に」

そして冬には「たまごっちホントのはなし」が立て続けに上映された。(ごめんなさい、これは見たことないわ)

当時オタクへのシャイニングロードをスキップして爆進していた僕の脳内は「人類補完計画」や「飛天御剣流最終奥義天翔龍閃」などで溢れ、

如何にして不知火舞のパンチラを網膜に焼き付けるか真剣に思案してみたり、

とにかく毎日がアニメだったりゲームだったりで右脳と左脳がパラッパラッパーだった。(今もそれほど変わってない気もするが)

そんなオタク脳が形成されつつある真っ只中に、

僕は「もののけ姫」を観てしまったのだ。

記録的な猛暑だった、1997年の夏に。

怒涛の展開と美麗な映像。

そしてスクリーンに映し出されるアシタカとサン。

『生きろ』というシンプルすぎるキャッチフレーズそのままに

彼らはそこで確かに息をしていた。

正直に白状するが当時の僕は物語の設定やテーマなど

この作品の持つ「メッセージ性」みたいなものを理解してはいなかったと思う。

だが

とにかくこの日を境に僕の脳内は「タタリ神」や「シシ神さま」、「兄様!って言ってた子にもらったナイフみたいなやつ、サンにプレゼントしててなんなん?」などのもののけ姫関連で支配されるようになった。

VHSももちろん購入した。

なぜか僕と妹と母で割り勘して購入した。

ついに我が家へやってきた「VHS版もののけ姫」。

妹と母はよく見ていた。

だが、

僕はなぜだか時間をとって見ることはなかったように思う。

金曜ロードショーで放送されていたものも腰を据えて見たことはなかった。

そう。

僕は「意識して」もののけ姫を観ないようにしてきたのだ。

この映画はもっと、なんというか「気合を入れて」観なければいけない。

というか、「特別な」状況で観なければ失礼にあたる。と考えていた。

(いやすみません。何を言っているのか分からないと思いますが、簡単に言うと『好きすぎて観れない』というディープなオタクが時々背負ってしまう十字架スキルです・・・)

そして時は流れ2020年。

世の中が「カルピスウォーター」ではないと遥か昔に悟ってしまった葉加瀬中年・闇属性(僕)は、

23年ぶりに、この大作アニメーション映画を観るために劇場へ赴いた。

感染対策のため席をひとつ開けて座る劇場内。

上映前の諸注意映像も、携帯の電源オフなどに加えて、マスク着用の項目が追加されていた。

そしてトトロの横顔がスクリーンに映し出され、いよいよ映画がスタートした。

目頭が熱くなった。

映し出される日本の原風景。

ヤックルにまたがり矢をつがえるアシタカ。

タタリ神の怖気が走る黒いうねうね・・・。

ああ、

ぼくはいま97年のあの日に還っている・・・。

23年前のあの日に。

そして当時では理解できていなかった様々な内容に気がつく。

室町時代の話だったのか、とか

アシタカはアイヌ民族だったのか!とか

特に僕が最も心動いたのが、

森林を伐採し山を削るエボシに対してその行いを非難したアシタカが

その直後、タタラ場で強く生きる女たちが言う「ここは下界よりマシ」という言葉に対し、

うつむきながら言う「そうか・・・」という一言!

えええええええ!?

エボシが私利私欲で動く悪ではなく、彼女なりの正義と守るものがいることを悟るシーンだと思うんだが、

それが「そうか・・・」だけで表現されている。

昨今なんでも説明しがちな物語が跋扈し

「感じる」ことに強く惹かれている自分にとって

これはたまらなく快感だった。

他にも目配せや無言の頷き、そして間(ま)・・・

冗長な説明をせずに「悟れよ」という演出がたくさんあり、

「もっと!もっとそういうのちょうだい!」という気持ちで観ていた。

物語のラスト、

「人間を許すことはできない」と言いきるサン。

これ凄くない?

いや、普通に考えたら許さないのが通常のところ、

それをあえて物語のラストで言葉にしちゃう。

ラストで!

脳が揺れた。

完全なハッピーエンドは気持ち悪く感じてしまう自分にとってのこの「毒」は良い刺激でした。

そして「おわり」というテロップが表示された瞬間、

涙が流れた。

なんの涙か分からなかった。

いや、単に物語やこの作品の持つパワーに感動しただけなのかもしれない。

もしくは現在の世の中を取り巻く状況がそうさせたのか。

新型コロナウイルスによりオリンピックは延期、様々な娯楽施設やエンタメの休業、縮小・・・

ややもすると97年以上に鬱々とした現実に僕たちは生きている。

そう、「生きて」いるのだ。

そんな僕たちにこの映画は言う。

「生きろ」

と。

そして森が死に、また再生するように

必ずまた明るい未来がやってくるのだと。


以上。

駄文、ご勘弁を。

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追記

今後、『ジブリでどの作品が好きかQ&A』が執り行われた際は

「ねえ、ジブリで・・・」

くらいのタイミングで

「もののけ姫」

と答えようと思う。

皆さんも大好きな映画を改めて観てみてください。

ではまた。

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