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【ICU/国際基督教大学】英語ができない人間によるICUサバイバルメソッド

 「ICU生って英語めっちゃ喋れるんでしょ?」
よく言われます。就活においてもバイトするにおいても執拗に。でも私は喋れません。むしろ英語は嫌いです。
 もちろんICU生は、英語をはじめとして語学が得意な方が非常に多く、国際色豊かです。しかし、必ずしもそのような人ばかりでないというのは、世間に広く知られていることではありません。

 私はICUの現3年生(4月から4年生)ですが、できるだけ嫌いな英語に触れないよう、苦労しながら履修を組んできました。熊本県出身で、中学は不登校、高校は地方公立通信制というICU生としてはかなり特殊であろう道を歩んできて、英語はもちろん他科目の基礎知識すら怪しい私ですので、ICUでの勉学は常にサバイバル状態でした。
 他の科目も大変な中、どうにかして英語の影響を最小限に抑えるためにもがき苦しんだ軌跡、そして英語ができないICU生としての葛藤を、ここに残しておこうと思います。
 また、英語は苦手だけどICUを受験してみたいという方の参考にもなれば幸いです。ICUをネガキャンしようという気はあまりなく、むしろ入学してよかったと思うこともたくさんあるので、それも後の方に書いておきます。
※「ICU生なのに英語を避けるなんて何事だ!」と怒られそうですが、自分のメンタルを守るためにめちゃくちゃ大事だったことを最初にご理解いただきたいです。


1.なんで受かったんだろう

 なぜでしょうか。きっと一生の謎だと思います。それくらい、私が合格したことは奇跡に近かったのか、あるいはICUの器が大きかったのか。私は総合型選抜で合格しましたが、どちらにせよ、入学が決まったときはとても嬉しかったことを覚えています。(入学経緯や対策については、また別の機会にまとめてみようかと思います。)
 しかし、やはりというべきか、入ってからはこれでもかというほど苦労をしました。周りは流暢に会話する人々ばかり、留学経験もみな豊富で、なんかすごい高校卒の人や、東大や医学部落ちからICUへ入学した人もそこら辺にゴロゴロ転がってます。そのなかで、ヒエラルキーがあるとまでは言わないけれど、英語ができないことで肩身の狭い思いをすることは多かったです。というより、周りは社会の中でも圧倒的に高い水準の教育を受けていて不自由なく暮らしており、それに比べて自分は…という卑屈な思いの方が強かったのかもしれません。もちろん、今ICUに通えていることに対して両親に感謝してもしきれませんが、ICUにはとんでもなく恵まれた環境で育ってきた人が山ほどいます。そこで悔しさをバネに頑張れる人間であれば何か違ったかもしれませんが、悲しいかな私はそうではなかったので、どうにかして避ける術を模索する道へ進むことになります。
 2年生が終わるくらいまでは、なぜ自分はICUに入学してしまったんだろうと自信が無くて無くて仕方なかったです。しかし自身の所属メジャーを決め、就活が始まると、メンタルや知識教養の成長もあってかその気持ちも薄れていきました。とにかく、自分と他人を比べてはいけないと、痛いほど学びました。

教訓①:「自分は自分、人は人」

2.ELAをサバイブする

 日本で教育を受けて入学したICU生が避けては通れない道、ELA。ストリームは1~4まであり、ほとんどの1年生は、入学から1年間ほぼ英語漬けの生活を送ることになります。分布的には500人弱程のストリーム3が圧倒的マジョリティーで、4は120人弱程でしょうか。もちろん私は一番下のストリーム4に振り分けられ、セクションメイト(クラスメイト・通称セクメ)も、多くは英語にある程度の苦手意識を持つ方々でした。
 ちなみに私の英語能力は英検2級で、準1級にギリギリ手が届かないくらいです。20人弱いる私のセクメたちも英検準1級~2級程度が多く、私と同じ英検2級で総合型選抜を通過した人が数人、一般選抜で英語以外の科目の成績があまりにも良かった人が数人、残りは指定校推薦でした。ストリーム4には一般選抜の人はほとんどいません。一般選抜をくぐり抜けられる人は大体英語が得意(苦手な人はそもそもICUの一般を受けない)なので、ストリーム3以上に行くことが多いですね。

 さて、「ELAは修羅の道」と言われることは多いですが、実際当たっている部分とそうでない部分があります。確かにELAは辛いです。リーディング・課題ともに半端じゃない量を課せられます。セクメの中には徹夜で課題をやっていた人も多く、ふらふらになりながら毎日教室に来ていた人もいました。ICUでの生活をそこらの私立文系と同じにしてほしくないと、多くのICU生が思う理由はここにあります。みんな平等に、下手したら受験期よりも入学後の方がハードに勉強させられるのです。そして実際、語学のみならず学ぶことがそもそも大好きである学生がICUには非常に多いです。
 ただ、これはストリーム4経験者の意見ですが、みんなある程度英語に対する苦手意識やICU内での相対的な劣等感がある中で、ELA担当の先生方はその気持ちを汲んでくださることが多かったように感じました。もちろん英語スキルを上げるために、ストリーム4ならではのこまごまとした特殊授業や課題はありますが、小中学校レベルとまでは言わないまでも、自分の意見を英語で主張できた際にそれ自体を評価してくれる風潮があります。逆にストリーム2・3所属の学生に話を聞くと、学生のポテンシャルを見越してか、さらに多い課題量や難しいリーディング・ディスカッションを課す厳しい先生も多く、苦労が尽きなかったとの声を多く耳にします。セクション内でのレベル格差も大きく、自分のスキル以上のストリームに振り分けられた場合は地獄だと言っていた友人もいました。
 このことから、ICUにおける英語スキル最下層であるストリーム4に行くことは、英語弱者にとって実はそこまで悪いものではないことが分かります。1~4ストリームの中で授業コマ数は一番多いですが、その分もらえる単位数も一番多いですしね。プライドさえ捨てることができれば、一番楽にELAを突破できるのがストリーム4です。一番低いからと言って蔑ろにしてはいけないのがストリーム4なんです。 

 また、私のセクションは運よく高校のクラスの延長線上のような雰囲気で仲が良く、課題も協力し合うような関係性を築けました。これに関しては本当にガチャでしかありませんが、セクションの仲の良さもELAを乗り切るための重要なポイントです。

教訓②:「ストリーム4に行っても自己肯定感を下げない、むしろ喜ぶ」

3.E開講をサバイブする

 ELAを修了した後も、英語の圧力は続きます。次の課題は「E開講」、英語開講科目を一定単位数以上こなさなければなりません。卒業要件は最低18単位、科目数に換算すると6~8くらいでしょうか。英語になんの苦手意識もない方だとへっちゃらなのでしょうが、苦手な人にとっては地獄以外の何物でもありません。ディスカッションやグループワークが多く、壇上でのプレゼンがある授業だとなおさら、自分の英語力の低さを大勢の前で披露することになりますし、一緒のグループになった人に多大な迷惑をかけるかもしれませんから。

 これを乗り切るうえで一番大事なことは、シラバスを細部まで読み込むことと、授業の口コミを普段から収集しておくことです。まずE開講の中には、表向きは英語開講であっても、実際は先生があまり英語が得意ではなかったり単純に優しい場合により、テストやレポートは日本語で回答/執筆が許されている授業もあります。それを発見するためには、シラバスの「Language of Instruction / 教授言語の詳細」をよく読むこと、友達や先輩から情報収集を行うことが重要です。また、ディスカッションの多さやグループワークの有無はシラバスには書かれていないことが多いので、地道に口コミを集めて判断しましょう。そして、そのような授業には同じことを考える英語弱者が多く集まるため、予備登録の時点で希望順位を一番高く設定しておくことが必須です。
 加えて、その授業が興味ある学問分野であることも大切かもしれません。全く事前知識がない分野より、ある程度概要を把握している分野の方が、詳しい英語は分からなくても「何を言っているか勘で分かる」状態に持っていける場合があります。

 最後に邪道なやり方を紹介しますが、日本の歴史や宗教などに関する授業のE開講は、英語が分からなくても名前や固有名詞から何を言っているかある程度理解でき、テストやレポートでも高得点を取れる可能性があります。その場でぱっと分からなくても復習が容易になりますし、高校で日本史選択をしていた場合はさらに楽になるかもしれません。英語“で”未知のことを勉強するのはなかなか骨が折れますしね。(決して学ぶのが嫌なわけではないですよ!)

教訓③:「とにかく情報戦」
教訓④:「知っていることをもう一度英語で学んでみる」

4.サークルをサバイブする

 大学生活をより楽しく充実させるものは何でしょうか。そう、「サークル活動」です。規模が小さいと言われがちなICUにも、たくさんのサークルが存在します。私自身、中学高校と学校コミュニティに全く入っていなかったこともあって、サークルに入らないという選択肢はありませんでした。しかし不真面目なことに、サークル活動の間ですら英語に触れたくなかった私は、いかにして日本語があまり得意でない学生が入り込まなさそうなサークルを見つけるかに力を注ぎました。力を注ぐ場所を間違えているという意見はごもっともです。否定はしません。

 そんな中で私が所属したのは「ICU落語研究会」、世間ではいわゆる落研(おちけん)と呼ばれるサークルです。もともと和服を日常的に着るのが好きだったり、能や茶道といった日本の伝統文化が好きだったため、楽しく活動できそうだと考えました。
 ここからが重要なポイントですが、落語は「話芸」です。所作が最も重要視される茶道や日舞、アーティスティックな感覚を要する華道とは、また一線を画したところにあります。近年では英語で披露する噺も存在しますが、基本的に江戸弁や関西弁を用いて噺の世界に引き込んでいくのが伝統的な落語です。日本語話者でないと習得や披露がかなり大変であることが分かるかと思いますし、あまり喜ばしいことではありませんが、実際英語ネイティブの方々も入部を避けがちな団体です。日本語ネイティブかつ英語も得意な部員は多いですが。
 このような魂胆で私は落研に入部し、現在ものうのうと楽しく過ごしています。落研部員に対してこの場を借りて懺悔します。サークルくらいは英語を頑張ってもいいかなと思う方は、ぜひ参考にしないでいただきたいです。

教訓⑤:「嫌なものは嫌」

5.ICUに来る意味あった?

 結論から申し上げると、あります。英語や国際性を抜きにしても、ICUに入学する価値はあると私は考えます。
 良い点も悪い点も挙げ始めるとキリがありませんが、リベラルアーツである利点は非常に大きいです。当初私は学芸員課程を履修し、学芸員資格を取ることを目指していました。(ICUの中には博物館があり、座学から実習まで学内で全て完結します。)しかし自分の求める学びと博物館学が扱う範囲に齟齬を感じ、結局諦めることを選択しています。その後、もともと好きだった哲学分野へ舵を切ることになりました。一旦気になる分野に触れてみて、もしダメだった際に進路変更がしやすいことは、ICUで学ぶメリットのひとつです。それだけでなく、広く自然豊かなキャンパスや少人数教育の快適さは、今では私にとってなくてはならない要素と言えるまでになりました。

 そもそもなぜ私がICUを目指したのかといえば、一般選抜の、人文社会の問題に惚れ込んだからです。ICUの人文社会は教授陣が毎年独自に問題を制作しており、問題文の長さと設問の量は特筆すべきものがあります。その内容は幅広い教養を問うものであり、思想史・政治史・文化史問わず様々な角度から出題されるのが特徴ですが、私はこの過去問を解くことが大学受験期の楽しみのひとつとなっていました。歌舞伎の演目名を問う問題が出題された年もありましたね。ICUのオープンキャンパスで学生スタッフをしていると、いつも受験生や親御さんから「どうやって受かったのか」聞かれますが、一般選抜に関しては“適正検査”に近いものがあるため、解ける人は何もしなくても解けちゃう、というのが学生の正直な本音です。とは言っても、私はICUのあの難関英語が解ける自信がまるでなかったので、総合型選抜を選択しました。きっかけなんて、こんなもんでいいと思うんですよね。
 そのような試験をパスしてきている一般勢と、そもそも高いやる気がないと合格しない総合型選抜勢、加えて指定校推薦で進学してきた方々も真面目で意欲的な人がとても多いので、学生の雰囲気を見ていても、学問を心から楽しんでいる方が多い印象です。息をするようにICU生はディスカッションをしますし、この中に身を投じるだけでも良い刺激になります。

 それに付随して、ICUでのやりすぎとも言える回数のディスカッションやグループワークを経験すると、的確な論点整理や進行管理等のスキルを知らず知らずのうちに獲得し、就活時のインターンやグループワーク選考でかなり有利に立てます。就活をしている周りの友人も、それをアドバンテージに考えている人が多い印象です。私の場合、語学スキルというより、そもそものコミュニケーションスキルが根本から爆上がりしました。正直、ICUに入学した価値のうち8割は「コミュ力の圧倒的な向上」が占めているかもしれません。
 人それぞれICUに求めるものは違いますが、私は以上に挙げた色々を受けて、十分ICUに来て良かったと思っています。もはや開き直りの域に達していますが、様々な葛藤を経たうえでの結論です。

教訓⑥:「本当の価値は他のところにあるかもしれない」

6.終わりに

 英語が得意でなくても、ICUでちゃんとやっていけます。
 英語が得意でなくても、ICUを目指すことは許されるし受かります。
 英語が得意でなくても、ICUで学ぶメリットはたくさんあります。

 何を捨てて何を得るか、全ては自分次第です。私はICU生活において英語を捨てましたが、それ以上に大きなものを得ることができたと思っています。
 以上、ICUで英語を避け続けた学生のサバイバルメソッドでした。最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

筆:袴ちゃん


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