カイゼンの先にイノベーションはあるか?
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46873570S9A700C1X12000/
若者は上司に認められるより、仲間に認めてもらいたい。そういう意識調査の結果がある。その心理を最大限に利用した制度であり、職場でさまざまなアイデアを生み出すのに効果的だろう。
もっとも日本の会社は、昔からそれを実践してきたといってよい。生産現場の改善活動だけでなく、大部屋で顔をつきあわせながら仕事をするオフィスでも、みんなが互いに認めてもらおうとアイデアを出し合ってきた。それが新製品や新たなビジネスにつながるケースは数多ある。
ただ問題は、そうした現場レベルでの小さなカイゼンが、画期的な新製品やイノベーションには必ずしもつながらないことである。イノベーション不足に悩む日本企業を尻目に、アメリカではGAFAに象徴されるように大規模なイノベーションが企業を、そしてアメリカ経済を牽引してきた。
イノベーションを起こした技術者や起業家のなかには、世界中をアッといわせたい、世の中のヒーローになりたいという野心が成功の原動力だったと語る人が多い。同じ承認欲求でも同僚や社内ではなく、開かれた世界で認められたいわけである。承認欲求のスケールの違いが、そのまま仕事のスケールの違いになっているといっても間違いではなかろう。
前述したとおりカイゼンの延長線上にイノベーションがあるわけではない。それどころか、むしろカイゼンがイノベーションを阻害する場合もある。一つの阻害要因が、皮肉にも職場での承認である。イノベーションを起こそうとすると、さまざまな形で職場での摩擦や軋轢を生む。少なくとも仲間から歓迎され、なごやかな人間関係を維持できる可能性は低い。したがって空気を読み、職場での承認を失いたくない人ほど、イノベーションと無縁な存在になる。
職場での比較的小規模なアイデアやカイゼンを重視する場合には、同僚からの承認で動機づける仕組みをつくればよい。しかし画期的な新製品やイノベーションを期待するなら、より広い世界で承認されるような機会を与えなければならない。いまの日本企業、日本社会が求めているのははたしてどちらだろうか?