FOLIOリブランディングの裏側 ──構想からリリースまでの8ヶ月の軌跡──
株式会社FOLIO CDO(Chief Design Officer)の広野です。
この度、オンライン証券サービス「フォリオ」の正式リリースに伴いまして、思い切ったリブランディングをおこないました。
ビフォーアフターはこちらです。
ご覧の通り、今回のリブランディングプロジェクトはいわゆる「ロゴリニューアル」に留まらず、サービスを提供する上でのスタンスを改めて定義し直した、新たなブランドとしてのフォリオを再誕させることになりました。
パット見のビジュアルでいうと、安心を感じさせる「青」から、躍動感のある「赤」に変わるのですから、FinTech系スタートアップとしてはかなり挑戦的なリブランディングのようにも思われるかもしれません。
ここまで辿りつくのに紆余曲折ありましたが、包み隠さずリアルな8ヶ月の軌跡をここに記したいと思います。
【目次】
1. 危機感
2. 幕開け
3. 壁
4. 光
5. これから
1. 危機感
金融業界に参入するベンチャー企業が、他の業界と比べてより意識しなければならないのは何より「信頼性」です。
人様のお金を取り扱う証券会社であればなおのこと、あらゆるステークホルダーに対して安心感を与えなければなりません。
既存の金融機関との密な連携が必須なマーケットなのに、「何も知らない新参者が粋がって市場を荒らしにきた」と思われては本意ではありません。
ですから僕がこの会社を立ち上げる際に、VI(ビジュアル・アイデンティティ)の観点で意識したキーワードは「信頼」「中立」「知性」「誠実」でした。
(当初設定した「ロゴに込めた想い」より抜粋)
【金融機関としての高潔な矜持と不退転の覚悟】
人様のお金を預かる金融機関であるということ、それを我々は重荷ではなく矜持と捉える。驕り高ぶることのないノブレスオブリージュ。
決して軽くない責任と覚悟を象徴したロゴタイプは、倦まず弛まず重みのあるゴシック調のオリジナルフォント。
「信頼」と「中立」のグレーをベースに、「知性」と「誠実」の青をアクセントカラーとして採用。
この意図がうまく働いたのかは分かりませんが、金融業界の華々しい経歴をお持ちの方々が続いて入社してくださったことも背中を押して、創業当時より手探りな状態から始めたにも関わらず、既存の金融機関や様々な有識者のご協力を得ることができ、サービスローンチまで至ることができました。
しかしサービス運営を続けていくうちに、どうにも違和感を覚え始めている自分に気づきます。
きっかけは、フォリオが訴求方法をアップデートしたときでした。
β版をローンチした際のフォリオは「テーマでえらぶ、あたらしい投資」と、どちらかというと機能訴求寄りのコピーでしたが、しばらくしてから「ワクワクする投資、始めよう!」という感情訴求で打ち出すようになります。
(β版リリース直後、どちらかといえば機能訴求のフォリオ)
↓
(感情訴求にシフトチェンジしたフォリオ)
そんな訴求変更を皮切りにサービスとしてのブランドが洗練されていく中、特にコマーシャル動画の制作を進める上で、僕たちはブランドという観点から初めて大きな壁にぶちあたってしまいます。
それは、CMから受ける印象は「ワクワク」であってほしいのにも関わらず、サービスのテイストが落ち着いたものであり、特にロゴのしつらえが群を抜いてCMの中で「浮いている」ように感じる、という壁です。
(動画CMより)
危機感を覚えました。
このままサービスが成長していって、世に知られれば知られるほど後戻りができなくなってしまう。
このとき、2017年12月。
FOLIOが創業3年目に突入する時期でした。
正式リリース、モバイルアプリのリリース、LINEとの協業、TVCM等が後に控えている、今。
変えるなら、今しかない。
そうして、リブランディングプロジェクトが始動したのです。
危機感を感じたデザイン部による、ボトムアップのプロジェクトでした。
タイミングよくといいますか、同時期に僕たちは組織づくりにも意識を向け、「企業理念」を明文化しています。
(2018年1月、コーポレートミッションの策定)
(2018年1月、コーポレートバリューの策定)
創業当初に宣言した「資産運用をバリアフリーに。」というサービスに込めたミッションから、「全ての個を発揚する。」と視座を広げたコーポレートミッションを策定し、企業としてのスタンスを再定義したのです。
そんな「再定義されたFOLIO」に追いつき、これからの変化にも耐えられるようなVIを求めて、新年から試行錯誤の日々が始まります。
2. 幕開け
本プロジェクトはデザイン部の河野(@asuyakono)によるリードでスタートを切ります。
まずは工数確保のため、経営陣へVI刷新を今すべき理由などを丁寧に(しかし熱を込めて)プレゼンし、プロジェクトを正式に始動させます。
承認後は、リブランディングすることは決まったものの「ロゴをリニューアルする」という経験が実務上なかった僕たちは、まずVI刷新の事例をひたすら調べることにしました。
有名な事例に始まり、身近な会社でもリブランディングもしくはロゴをリファインした会社をひたすらピックアップします。
(これ以外にも多数)
そして、それぞれのロゴの特徴や、どういう想いが込められているか、どのような経緯で変更されたのか、どんな展開例があるのか、どういう方法でそれを周知しているか、などを考察と共に表にまとめました。
次に、ポジショニングを考慮し、FinTech系サービス・会社のロゴをまとめて眺めました。
ざっくりまとめた図を元に、それぞれの特徴は何か、ベンチマークはどれかなどを話し合います。
ここまでで、他社のリブランディング事例と同業界についての理解を深め、自分たちがどういう時代のどの場所に立っているかを認識しました。
次は「自らを知る」フェーズです。
手始めに、社員全員に対して現状のフォリオのブランドに関する調査をおこないました。
当時60人ほどおりましたが、ほぼ全社員が回答してくれました。
そのアンケートをもとに、「ブランド・アイデンティティ・プリズム」というフレームワーク(の k_birdさんによる改良版)を使って自社のブランドを言語化・可視化します。
この真ん中の「ブランドシンボル」をこれから再構築していくわけです。
現状のフォリオがどのようなブランドであるかを再認識したあとは、これからそのブランドをどうしていきたいのかをまとめ、いよいよコンセプトワークに入っていきます。
3. 壁
造形を決めていくフェーズに入りました。
デザイン部で「とりあえず量」を出しまくります。(のちのち反省することになります)
第1回目、手書きでつくりこまない程度の落書きから開始。
第2回目、1回目の中から選択して少しつくりこんできます。
そして第3回目。選べるくらいまでに絞られました。
ただ、いざこの中から1つ選べと言われて「どうしてもこれにしたい」というものが見つかりません。
もう一度幅を広げるため、第4回目のブレストをおこないます。
ひたすら、だす、だす、だす!
それをもとに第5回目。
アイコンとしての見栄えをチェックしたり、フォントの策定も並行で考えました。
上記はつくったものの中でもほんの一部ですが、こんな調子で2ヶ月弱ほどブレストを繰り返しました。
サービスを開発・運営しながらの並行作業となり、なかなか短期集中では難しかった覚えがあります。
3月に入る頃には、案が4つに絞られました。
ここまで来た段階で、一度プロジェクトは滞留してしまいます。
ロゴ自体のコンセプトは、それまでの議論をもとに意図を含めそれぞれ説明できていました。
しかし、そこから派生する様々なクリエイティブに対しては「ついでに名刺に当てはめるとこうなる」という具合に、付属のものとして取り扱ってしまっていたのかもしれません。
すなわち「ロゴの提案」であって「ブランドの提案」ではないが故に、そのロゴによって「フォリオがどうなるのか」という未来を、経営陣含めデザイン部すらも具体的に想像できずにいました。
どれも何かが足りない、なぜか腑に落ちないんだけど、それがなぜが分からないから、何も返す言葉がない、けど何か違う気がする……堂々巡りの状態でした。
今振り返れば、あのときは造形に意味をもたせることに躍起になっていたように思います。
しかし、ブランド策定において大事なのは、ロゴにすべての役割を押し付けることではなく、ブランドの核となるコンセプトを定義して世界観を想起させることだと、のちに気付くことになります。
4. 光
2018年3月末、アートディレクターとして吉原が入社しました。
彼はもともとブランドコンサル会社で働いていたデザイナーです。
僕らは待ってましたと言わんばかりに、その知見を活かして停滞しているリブランディングプロジェクトの突破口を開いてほしいとお願いしました。
今までのプロジェクト経緯やアウトプットを、彼に余すところなく伝えます。加えて、僕らのビジョンや実現したい世界観を出し惜しみせずに共有しました。
会社としての恥ずかしい過去から、途方もなく思われるかもしれない未来の夢さえも、すべて。
すると、物語は一気に結末へ向けて加速します。
彼は突然オフィスの一角を占領しはじめ、いくつかの「言葉」を壁に張り出しました。
これらの言葉はフォリオのブランドを再定義した「コンセプト」で、それぞれに応じてロゴやポスターやWebサイトや名刺などのクリエイティブがアウトプットされるわけです。
まずは各コンセプトから醸し出される雰囲気や世界観のムードボードをつくるため、様々な写真を切り貼りしていきます。
僕たちが初期におこなった「とりあえず量」のアプローチはまったく異なります。
今回優先されているのはロゴのパターン出しではなく、それぞれのコンセプトに沿った「世界観」の可視化とブラッシュアップでした。
造形としてのロゴはあとで精緻にするとして、まずは「世界観」を自分たちの中で醸成させるが先なのです。
その「世界観」醸成のため、こんな張り紙と付箋も用意しました。
「ONE IDEA ONE CHOCOLATE」……つまり「1個アイデアだしたら1個チョコレートあげるよ!」です。
「マグカップがほしい」でも「山手線ハックしたい」でも、何でもOK。
とにかく新しいフォリオのブランド策定にあたって、世界観のヒントやモックアップをつくる際の候補になるアイデアを募集しました。
(「e-sportsじゃなくてFOLIOだから、"f-sports!!"」など全く意味不明なアイデアもありますね。しかしそういうアイデアこそ、他の人のアイデア出しのハードルを下げるため価値があると僕は常々思っています。)
結果、職種関係なく多くの社員たちがふらっと立ち寄って、みるみるうちにアイデアや感想を貼ってくれました。
デザイナーでなくとも、フォントについて感じる印象などを物怖じせずにコメントしてもらいます。
ロゴの造形も決して少なくない数のパターンを出し続けてきましたが、時間をかけるにつれ候補もまとまってきました。
さて、僕らは様々な職種の人とコラボレーションし、ひねり出したコンセプトと世界観をブラッシュアップさせていきました。
1ヶ月程度かけ、最終的に4つの案をもって経営陣にプレゼンテーションをおこないます。
ただし、このプレゼンテーションは単なる「ロゴ」の提案ではありません。
新生フォリオの「ブランドコンセプト」と「その世界観」の提案なのです。
せっかくなので、実際の提案スライドより何枚か抜粋し、4つの案すべてをご覧いただきましょう。
候補A「LIFT ME UP!」
候補B「BE A JEANS」
候補C「FIND OUT YOUR VALUE」
候補D「ALWAYS JUICY」
どの案も「コンセプト」が明確に定義されており、単なるロゴの提案ではなく、あらゆるメディア(=世界とのタッチポイント)を駆使して総体として作り出された「世界観」の提案となっています。
すなわちブランドそのものの提案となっているため、経営陣も僕たち自身も「この案だったらフォリオは世の中からこういう見え方をするのか」と容易に想像することができました。
この提案の中から総意で選ばれたコンセプトは「LIFT ME UP!」です。
もともと安心の「青」を使っていたフォリオからすると、4つの案の中で「赤(ピンク)」を使うこの案を選ぶのは、かなり思い切った決断でした。
しかし、色がどうというよりも、フォリオがこれから挑戦して作っていきたい世界観や、世の中に提供できる僕らの価値、そして年始に策定したミッション「全ての個を発揚する。」との相性などを総合的に考えたとき、「LIFT ME UP!」というコンセプトが最も相応しいと考え、苦節6ヶ月、晴れてここにフォリオの新ブランドが決定したのです。
5. これから
ブランドコンセプトが「LIFT ME UP!」に決まったあとは、造形を精緻にしていったり、カラーバランス等をすり合わせていくフェーズです。
(「……いや全部一緒じゃん!」と言い放つCDO)
あまりにも赤色を押し出してしまうと、どぎつい印象を与えてしまったり、逆に可愛すぎる印象を与えてしまうする可能性があります。
そのためサービス全体を新VIに適用する際も、デザイナー全員が丁寧に1ページずつ、1コンポーネントずつ協議をおこない、慎重にビジュアルを作り込んでいきました。
そしてある程度方向性が合意できてからは、それをガイドラインに落とし込んでいきます。
ブランドデザインガイドラインには、カラーやクリアスペースの指定等だけでなく、「LIFT ME UP!」なフォリオを正しく理解できた場合のキーワードや言葉遣い、写真の選び方なども明示的に定義しています。
たとえ入ったばかりの新入社員でも、これを読んだだけでフォリオという人格がほぼ理解できるようになることを、僕たちは目指しています。
ブランドというものは「策定してはい終わり」ではなく、浸透させるまでが本業です。
どこに浸透させるのか?
もちろん、ひいては世界に……なのですが、まず僕たちは「社内」に向けてこのブランドを正しく浸透させなければなりません。
サービスを提供する側がブランドを正しく理解していなければ、どうして提供される側に伝わりましょうか。
そのため僕たちは、ガイドラインのブラッシュアップだけでなく、全社員に参加してもらうワークショップなど様々な計画を立てたり実行しているのですが、それはまた別の機会にお話することにしましょう。
これからもフォリオは、ブランドステートメント「LIFT ME UP!」を胸に、世の中にワクワクを提供し続けることを、ここに宣言致します。
最後に、今回策定したブランドデザインガイドライン・スタイルガイドラインを一部ご紹介して、本記事の締めとさせていただきます。
ブランドデザインガイドライン
ブランドデザインガイドライン
フォリオのブランド価値を意匠として損なわないよう、パートナーに正しく使ってもらうための指針。
(一部抜粋/42枚)
スタイルガイドライン
スタイルガイドライン
フォリオのブランドを内部から正しく発信し、ブランドに統一性をもたせるための指針。
(一部抜粋/27枚)
※記事内の画像はリブランディングを説明するためのものであり、FOLIOの金融商品の紹介ではありません。