イギリスの「裁判のIT化」イベントをネットで見ました
こんにちは。LegalTech Labの高瀬です。
今週の月曜日(2018/10/15 21:00 JST)にイギリスの「裁判のIT化」に関連した1時間ほどのイベント("HMCTS Reform Online Event: Civil")があり、全世界に向けてネット上でライブ配信されていました。その内容が結構面白かったので、まとめてみました(なお、写真多めです)。
まずはイベント予告ページから。こんな感じです。
Twitterでも、「裁判所が最近していることのイベントするよ」、みたいな告知がありました。さり気なく10億ポンド=約1500~1700億円の予算規模だよ、と書いてあることにも驚かされます。
ところで、イベントの主催であるHMCTSとは何者なのでしょうか? HMCTSの正式名称は"HM Courts & Tribunals Service"なのですが、ざっくり言えば、イギリス司法省の司法行政を担当する部署が独立したイギリス版独立行政法人(wikipediaの「エグゼクティブ・エージェンシー」の説明に詳しいです)みたいなところのようです。ちなみに、このHMCTSは何故かGitHubにもアカウントを持っています。
それでは、早速当日の内容を見ていきましょう。
オープニングトーク
最初のスライドです。最近の民事裁判改革のビジョンの説明から始まります。ちなみに、今回のイベントでは、スライド左上の「Civil Money Claims」に関する説明やデモが主でした。
次のスライドです。「少額訴訟をもっと簡単にネットで出来るようにしよう」、というプロジェクトの紹介です。後で、デモもありました。
次のスライドです。このネット裁判所を使ったユーザーの約9割が、「満足した」あるいは「とても満足した」と回答したようです。
また、イギリスの裁判所は、少額訴訟のネット裁判所以外にも様々な改革をしている、とのこと。ちなみに、あまりにもいろいろし過ぎて、会計検査院からダメ出しされて、あの伝統ある英国議会から報告を求められているようです。
ネット裁判所のデモ開始
いずれにせよ、上記のようなざっくりとした説明を受けた後に、少額訴訟のネット裁判所のデモが始まります。ネット上の裁判所とはどのようなものなのか、初めての体験に少し心が躍ります。
原告側がすること
まずはこのように粛々と入力欄を埋めていきます。金額、年齢、場所、個人 or 集団etc....デモのURLを見て少し興味深いことを発見しました。あ、heroku使っているんですねwしかも何故かversion 2ですw
諸々入力した後に、登録、と思いきや、エラーページが表示されてしまいました。
日本だとこういうときに、割とてんやわんやになると思われますが、少なくともデモをしていた担当者の方はのんびりムードでした。「まだまだプロトタイプで色々問題があるから気にしないで」etc
ところで、そもそも、日本の司法行政を担う方々がネット上でイベントをすることはあるのでしょうか。
気を取り直して、既に作ってあった情報を元にデモが進みます。
今度は訴状について具体的に記載していくようです。フォームを粛々と埋めていきます。
被告側の情報を入力する欄に Their Details というラベルをつけています。被告を意味するなら Defendant ではないかという疑問がありそうですが、アンケート調査を行い、「DefendantよりTheirという単語の方が国民に馴染みがある」という理由でTheirとしたという説明がありました。音声だけの説明でしたが、裁判所でもカスタマージャーニーやってるよ、みたいなドヤ顔感がそこにはあったような気がしました。
被告側がすること
原告がフォームを埋めてネット上で訴状を提出すると、相手側に訴状が届きます。メールでも郵送でも訴状が届くようですが、それを受け取った側は反論をすることになります。
例えば、メールのリンクをクリックするなりすると、訴訟の詳細が見られます。
そして、対応を決めます。
反論するときは、答弁書を記載します。
事件のタイムラインを追加したり、
証拠をアップロードしたりもできます。
ちなみに、今していることが訴訟プロセスのどの段階なのかは適宜ダッシュボードで確認出来ます。
調停
そして、いよいよ終盤に差し掛かります。今回は電話による無料調停を行うようです。
そして、調停の結果、被告からの和解案が提出されます。その和解案で合意するのか、しないのか。今回は和解をすることになりました。
そして、クリックをしていくと、法的な文書(和解調書に相当する!?)が作られます。まるで、契約書作成ソフトを使っているかのようです。
調停終了
調停終了です。
和解書はPDFとしてダウンロードも出来ます。
何故かまたエラーですw
もちろんダッシュボードでも訴訟のステータスを確認出来ます。
めでたしめでたし。
感想
初めてのネット裁判所の傍聴でしたが、なかなか興味深かったです。一度も裁判所に行かないのにいつの間にか紛争が解決している感覚は新しいかもしれませんね。また、日本の裁判所での少額訴訟のプロセスはこの記事に詳しいのですが、ある種の紛争は確かにこのデモのようにオンライン上での紛争解決の方が適しているかもしれない、というような印象を持ちました。
一方で、フォームの入力が多い・調停が電話であること等は気になりました。また、裁判資料の解析や調停や執行などの局面でもテクノロジーが活用出来るのではないでしょうか。
いずれにせよ、裁判のIT化はこのように世界の多くの国で議論が展開しています。今後とも、テクノロジーでルールの可能性を追求して行きたいと思います。
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