スクリーンショット_2018-11-29_20

「契約の未来」を語るイベントに登壇しました

2018年11月22〜23日に慶應義塾大学が主催したイベント「SFC Open Research Forum 2018」でリーガルデザイン・ラボの発表があり、シティライツ法律事務所の水野祐弁護士(@tasukumizuno)と「サインのリ・デザイン by クラウドサイン」編集長の橋詰さん(@takujihashizume)の対談の途中で、エンジニア目線で「契約の未来」に関して発表させて頂きました。

発表当日は、3連休の初日の朝にも関わらず、40〜50人ほどの方々が発表を聞きに来てくださりました(当日ご参加くださった伊藤雅浩弁護士には、個人ブログ『Footprints』の記事「リーガルデザインラボ・研究発表」にフィードバックを頂きました。また、その他twitter等で様々な方からフィードバックを頂きました。この場をお借りして感謝申し上げます)。
率直に言って、あえてこの時間帯に「契約の未来」について知りたい方々の前で発表をするというのは、かなり緊張する体験でした。そのなかで、私が恐る恐るテーマに選んだのは、「インターネット裁判所の台頭という新しい条件」に着目した「契約の未来」でした。

以下、私の発表のエッセンスと時間の関係で語れなかったことを少し述べてみたいと思います(発表時の資料:「契約を語る人も、裁判所も語る人も、同じ夢を見ている。」)。

法律文書の構造化と標準化について

エンジニアの観点から私がした問題提起の一つは、契約書や法律文書の構造化と標準化がもっとなされるべきなのではないかという点でした
以下のスライドは会社法105条を政府の法令標準XML APIのURLを叩いて取得したものですが、契約書やその他の法律文書もこのXMLのように構造化・標準化されていくことのメリットは大きいと考えています。

例えば、契約書が法令等とAPI連携出来るようになるならば、日本政府の政策であるSociety 5.0もより良いものになると思われます。
また、「契約書の開発環境」はソフトウェアの開発環境と比べるとあまりにも貧弱である印象がありますが、法律文書の構造化と標準化が推進されることで「契約書の解析」もより容易になると思われます。
昨今、COMMONS PALHubbleLegalForceなど「契約の作成」フェーズに関連するサービスも少しずつ台頭して来ています。このようなサービスの台頭を歓迎するとともに、より多種多様なサービスを日本社会が享受出来るような環境が少しずつ整備されていくことを期待しています。
個人的には、当事者の「合意」について機械可読性が高い形式となる方向性で適切な標準が出来ないか、模索していければと考えております。

合意管轄条項は曖昧過ぎるのでは

ここからは当日の発表ではあまり話せなかった内容なのですが、個人的には合意管轄条項は曖昧過ぎるという感覚があります。
例えば、シンガポール国際仲裁センターの仲裁規則を見てみると、2007年以降、3年ごとに更新されています。

上記の更新頻度を見ると、「契約の未来」を考えるにあたり、30年後のシンガポール国際仲裁センターが現在と同一のものだと無条件に仮定しても良いのか疑問があります。
上記は一例とはいえ、ある裁判所のX年後の姿が今とは大きく変わるならば、「本契約に関する一切の紛争は、XX裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する」というような管轄裁判所の合意ではなく、もっと具体的な紛争解決手段で合意した方が良いのかもしれません。

テクノロジーと裁判所規則競争

インターネット裁判所の台頭とともに、裁判所同士の競争が激しくなることも重要なトレンドだと考えています。特に、裁判所規則におけるテクノロジーの活用に関して、競争が著しくなると予想しています。中国の最高人民法院が2018年9月7日に新しい規則(「最高人民法院关于互联网法院审理案件若干问题的规定」)を発表したのもその一例である気がしています。
例えば、インターネット裁判所にとって「本人確認」は電子的なデータ以外に確認するものがなく鬼門であると言えます。一方で、欧米での「トラストサービス」政策や、日本の古物法や犯罪収益移転防止法における本人確認方法の変更など、テクノロジーを用いた認証方法の発展は注目に値します。このような新しいテクノロジーの動向を踏まえた大胆な裁判所規則を策定できる裁判所が、未来の多くの契約では選ばれていくと思われます。
ところで、現段階では、グローバルな法人認証基盤や電子委任基盤や調停調書/仲裁判断書/判決書の電子送達基盤が存在していないようです。(日本政府の法人認証基盤や行政手続のワンストップ化はまだ端緒に就いたばかりですが)上記のような裁判所規則競争を促進するためにも、今後の国際的な立法が待たれます

準拠法も必要なくなるかもしれない

変わりゆく裁判所。その姿を見ていると、もはや紛争解決手段もサブスクリプションモデルに移行する予感もあります(ちなみに、橋詰さんは、このようなサブスクリプションモデルの台頭を踏まえ、「すべての契約は利用規約になる」という「契約の未来」を発表していました)。しかし、変わりゆくのは裁判所だけなのか、疑問もあります。
例えば、インターネット裁判所が台頭していき「司法へのアクセス」が大幅に向上すると、従来社会で顕在化してこなかった紛争が司法の場に出てくる可能性があります。それを契機に、一時的に膨大な量の規範が国際社会に生み出される(「規範のカンブリア爆発」)ならば、それらの規範をベースにした新しい国際取引のルールや慣習が出来るかもしれません。インターネット空間を起点とした無国籍の統一ルールとインターネット裁判所があるときに、準拠法はどこまで必要とされるのでしょうか。

最後に

個人的に印象的だったのは、イベントに登壇した3人ともが、「契約」というプライベートな行為をパブリックな視座から捉えようとしていた点でしょうか。

最後に、この場をお借りしてこのような発表の機会を与えてくださった慶應義塾大学の方々、水野弁護士、橋詰さんに感謝を申し上げます。またいつか新しい不協和音を奏でる日まで。

冒頭の発表の様子の画像:ORFご参加者K.S様よりご提供

いいなと思ったら応援しよう!