響き渡る想い、消えゆく行事とある願い
かつて地蔵盆の日には、賑やかな六斎念仏の鐘の音が響いていた。
地域の人々は古くからの伝統を大切に守り続け、8月23日にはお地蔵様に
お化粧を施し、祭壇を飾っていた。
夜になると、町中の集会所のあちこちで念仏の鐘の音が聞こえていた。
しかし、時が経つにつれて町の人口は減り、過疎化が進んでいた。今では、六斎念仏を伝える人もほとんどいなくなり、行事そのものが廃れつつある。
小さい頃、私はこの行事が好きだった。当時は子供は多くいて、幡を取るために地区のお地蔵様を巡った。母と一緒にお地蔵様の前で手を合わせ、鐘の音に合わせて念仏を唱える大人たちを見て、いつか私もその輪の中に入りたいと願っていた。しかし、地元を離れている間に人口は減り、今では地蔵盆の行事が行われなくなってしまった。
ある日、祖母の家で古い写経本を見つけた。おそらく祖母が 使っていたと
思われる六斎念仏の本だった。埃を払い、お盆の日に近所の旧家で念仏を聞いた。昔の記憶が蘇り、心に懐かしさが溢れた。その瞬間、心の中にある想いが灯った。
「この村で、私にできることをやってみよう。たとえ少しずつでも、
かつての行事を続けていきたい。」
お盆に念仏を続けている人たちに話を聞きに行き、六斎念仏のリズムを教わった。そのとき、私は誰かに言われた言葉を思い出した。
「お地蔵様は、地獄に落ちないように思いやりの気持ちを伝えているんよ。亡くなっても、その良い行いをお地蔵様が伝えてくれるから、心配いらない。ここは、みんなで自分の生き方を振り返る場所なんだ。」
その日、私は未来について考えた。伝統を守ることは、過去を振り返るだけでなく、
未来を見据えることでもある。
六斎念仏の音と共に、私の心には新たな希望が生まれたように感じた。
「私にできることは、こうした知恵を受け継ぎ、今をよりよく生きるために伝えていくこと。たとえ小さな一歩でも、続けていけば、いつかまた、この場所でみんなと楽しく生きていけるはず。」
思い出の鐘の音は、海から吹く風と共に 静かに響いている。