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「裏金」の行方

引用元URL:http://www.ohmynews.co.jp/blog/archives/2006/08/post_117.html
投稿日時:2006年08月21日22:02

北海道警察(道警)の裏金疑惑に関する本の記述で名誉を傷つけられた―。そう訴えた元・道警総務部長の佐々木友善氏が、著者の北海道新聞記者2氏と同社、出版元の2社に慰謝料600万円の支払いや書籍の廃棄、謝罪記事の掲載を求めた民事訴訟の第1回口頭弁論が21日、札幌地裁で行われた。

問題となっているのは、04年に出版された『警察幹部を逮捕せよ!泥沼の裏金作り』(旬報社)と『追及・北海道警『裏金』疑惑』(講談社)の2冊。北海道新聞取材班による裏金追及の様子が生々しく描かれているほか、『警察幹部を逮捕せよ!』では共著者で作家の宮崎学氏、ジャーナリストの大谷昭宏氏との対談が収録されている。

警察の裏金疑惑は一部地方紙の頑張りによって北海道や高知で噴出したが、全国で同様の事例があるとささやかれる一方で、一部地域をのぞいて世間の注目は薄れ、真実のすべてが暴かれないまま報道は徐々に下火に向かいつつある。こうした中で行われる裁判は、警察による裏金問題への注目を再び集める機会になりえるかもしれない。

裁判での双方の訴えに踏み込む前に、道警による裏金疑惑とは何だったかを振り返っておこう。

警察の裏金疑惑とは、捜査協力者への「謝礼」などに充てるはずの捜査用経費や旅費などに関し、領収書や書類の偽造などで支払いを偽造してプールし、裏金化していたとされる問題だ。こうしてつくられた現金のうちかなりの額は幹部が私的に流用していたとされている。

道警の裏金疑惑を巡る報道は、2003年11月にテレビ朝日の報道番組『ザ・スクープスペシャル』が道警内部文書を基に旭川中央署の裏金を報じたことで火がつき、その後は北海道新聞の取材班が1年以上にわたってリードし続けた。

道警は発覚当初、流出した内部文書は真偽が不明などとして疑惑を全面否定した。しかし元・釧路方面本部長の原田宏二氏、元・弟子屈署次長の斎藤邦雄氏が実名で裏金の存在を告発したことなどを受けて道警は04年9月、捜査用経費に関して組織的な裏金づくりを公式に認め、謝罪するに至った。

ところが、道警は裏金の「私的流用」に関してはいまだに認めていない。一方、北海道新聞で裏金問題にかかわった記者は順次、他部署に異動になり、現在では報道も下火になっている。

さて、21日に行われた裁判だ。訴状によれば、佐々木氏側は『警察幹部を逮捕せよ!』の中の「総務部長は本部長から『よくもこんな下手をうってくれたな』と叱責されたらしい」との記述は捏造だと主張。『追及・北海道警『裏金』疑惑』にも、佐々木氏に関係する記述で3個所の捏造があり、社会的信用及び名誉が著しく毀損されたとしている。

これに対し、被告となった北海道新聞記者の高田昌幸、佐藤一の両氏側は「本は道警裏金問題を扱ったもの。佐々木氏個人の責任を追及したものではなく、そもそも名誉毀損には該当しない」と全面的に争う構え。出版元の2社も「道警の裏金問題という大きな社会問題を扱う書籍の中で、本筋と違うところで名誉毀損の訴訟を起こすのはきわめて疑問。裏金追及の動きに制約を加えようとの意図も感じられ、もしそうであるなら真正面から戦う」(旬報社)「内容には自信をもっており、裁判では正々堂々と争っていく」(講談社)としている。

同訴訟を巡っては、『警察幹部を逮捕せよ!』の共著者ながら、訴えの対象に入れられず「訴外」とされた宮崎、大谷の両氏が、高田、佐藤の2氏側での補助参加を同地裁に申し入れている。補助参加とは、訴訟の結果に利害関係のある第三者が当事者の一方を補助するため、民事訴訟法42条に定められているものだ。

大谷氏は「万一敗訴となった場合、被告から金銭の負担を求められることも考えられ、利害関係は存在する」とした上で、「本は共著で、分断して提訴すること自体おかしい。自分たちを訴えずに、雇用関係があるとはいえ本にかかわりのない道新を訴えていることに『道新を二度と道警に歯向かえないようにしてやろう』という意図を感じる」と話している。

(S川 S一)

未確定のため市民記者さんのお名前を伏字にしておきます。なおこの記事は2006年10月5日 15:58に正式採用、本紙に掲載されました。