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やたらに描写の細かい日記_確率過程の雨男

令和六年十一月三十日

 二本しかない安手の傘を家と職場のそれぞれに分け、出退勤の際に晴れたら面倒なので傘は持たず、雨降りでその場に傘が一本でもあれば傘を差して出るという知人の男がいる。晴天に傘を提げて行く労をきらった代わり、雨降りでその場に傘がなければ構わず濡れて行くという。たとえば家と職場に一本ずつ傘があるという時、一日目の朝に出勤すべく家を出発した際は雨天、退勤時に職場を出発した際は晴天だったとする。二日目の出勤時に雨天であれば、二本の傘はともに職場の方に置かれているから、男は雨に打たれて出勤する。このような規則に従って、初めに家と職場のそれぞれに傘を一本ずつ備えてから、男は幾度となく出退勤を繰り返してきたらしい。
しかるべく算盤をはじけば、このやり方についてあることが分かる。つまり、「十分長くこの規則に従って出退勤を繰り返した後のある朝に、男の手もとに傘が一本でもある確率」は、「該当の時期の男の出退勤時に雨が降っている確率」に従って動くことが言える。二つの確率が従って動くとはつまり、その時期に雨が降りやすければ、男が傘を差して行ける確率も高まるというほどの意味になる。ひょっとすると、直観に沿わない結果であるかもしれない。
このように「雨が降るほど傘を差せる確率が高まる」と言う時、雨が多く降るほどにあの男は満足するのだろうか。あるいは、時折は雨の中を空手で歩かなければならないとしても、総じて晴れの日が多い方が満足だと彼は言うだろうか。次に会う時まで覚えていれば、このことを彼に尋ねる。

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