小説指南抄(27)人物造型(悪役編)
(2015年 07月 22日 「読書記録゛(どくしょきろぐ)」掲載)
先日のレッスンで、「悪役、敵役、嫌な奴」などがうまく作れない、うまく書けないという相談を受けた。
作品内のどのようなキャラクターも、実際はすべて作家の心の延長線上である。
では、どうすればいいのだろうか。
悪役の持つ「悪」には必ず原因がある。嫌な人物の「嫌な面」にも必ず原因がある。そこから考えるのだ。
悪になる原因の一つは「弱さ」である。スターウォーズのアナキン・スカイウォーカーがフォースの闇黒面に落ちてダース・ヴェイダー卿になってしまうのは、妻パドメを死から守ろうとしたのが原因であるってのが典型的。
また、理想実現の為に手段を選ばずに酷薄な悪となるってのもある。
嫌な奴の場合も、やはりその原因は、本人の弱い気持ちだったりする。
ネガティブな、劣等感、ひけめ、妬み、嫉み、嫉妬、そんな気持ちに対する心理的防衛が、彼を嫌な奴にしているのかもしれない。
「弱さ」も「ネガティブな感情」も、誰もが持っている感情の延長線上の気持ちである。これならば書ける。また、こういう事情を考えると、どんな悪い奴も、嫌な奴も、作者として感情移入して書けるようになる。主役や読者から憎まれる悪役も、作者だけは理解してやろうじゃないか。そうすることによって悪役の行動が、彼の行動原理では納得できるものになる。決して物語のためのご都合で動いているわけではなくなるのだ。
さらに、エンタメの作家ならば、一歩突っ込んで魅力のある悪役を作ってほしい。そのためのキーワードが「二律背反」である。相反する要素が同居することで、悪役の人物像が深まり、陰影が増すのだ。
具体的には次のようなこと。
「美しいけど、醜い」
「怖いけど、優しい」
「強いけど、弱い」
例)「美しい外貌と、醜い欲望」、「美しい理想を実現する酷薄で非道な手段」、「コミカルなピエロの姿の殺人者」、など。
この二律背反こそが、作品内のドラマの重要なポイントであることが分かると思う。
魅力的な悪役を造形できたときこそ、作品の成功は約束されるのだ。
(2023/10/17 追記)
このようなコツは、物語(小説や映像を問わず)を見まくることで身についてくる。そうすると、ドラマを見ているときなどに、張られた伏線などがわかってしまい、「後段で~が~するんじゃない?」という予想がことごとく当たるようになる。私など細君から、「もう父さんとはドラマ観ない」と言われているぐらいである(苦笑)
読者の唸るような物語は、その後に書けるようになってくる。
この記事は「小説指南」より採録しています。
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