創作エッセイ(24)言葉で映像を伝える
写真プレゼン・バトル
(2015/10/20 Facebook投稿より)
ビブリオ・バトルの参加者仲間から写真プレゼン・バトルというものを教わった。
撮影した写真の裏の、「撮影者の気持ち」を語るということらしい。
自分が切り取った光景を言語化するってところが面白い。小説における「描写」ってことと通じるんだよね。
ハードボイルドという手法
ハードボイルド小説は、感情表現を排して情景や状況の描写だけで登場人物の気持ちを伝える。彼が、何に目を奪われどんなリアクションをしたかで彼の感情を伝えるのだ。
例として挙げると、生島次郎の「傷跡の街」(ややうろ覚え)
運河は濁っていた。いつも濁っているのだ。
これが物語の冒頭である。街の喧騒でもなく、季節の移ろいでもなく、まず「濁った運河」を描写する。これだけで主人公の虚無的で孤独な生活が感じられ、これから綴られる物語のムードすら伝わってくる。
実は、私の小説修業はハードボイルド小説から始まった。生島次郎さんの後を追い、北方謙三さんや大沢在昌さん等、ハードボイルド・ミステリが一気に花開いた時期だった。1970年代の後半である。当初は、ハードボイルドな漫画(谷口ジローさんとかを志向してた)を描いていた私は、1980年に小説に転向したのだった。
次の例は、レイモンド・チャンドラーの「大いなる眠り」
依頼人のスターンウッド将軍の家を訪れる。そこで現れた娘から、「あら、あなたが雇われた探偵さんなの? 背が高いのね」といってしなだれかかられる描写がある。
それだけで、マーロウは背が高く、女が甘えたくなるようなイケメンらしいということが読者にわかり、同時にこの女の問題も明らかになる。描写だけで、そこまで伝えるのがハードボイルドなのだ。
これは小説を書くものにとっては必須の才能。作家を目指す方は、ぜひ体得していただきたい。
(2023/10/22 追記)
この写真プレゼン・バトル、今はやってるかどうか不明だが、撮影者の写真の裏の気持ちを聞くってきっと面白いと思う。
キャッチコピーは、「フレームの外のドラマを聞こう」ってところかな。
写真家のエッセイネタにもなるかもしれない。
写真や動画やアニメや漫画のような映像ではない小説は、言葉によって読者の脳に映像を刻む。それが作家の力なのだ。