まえばし心の旅038:初市
前橋の新年の恒例行事の一つは、初市だろう。今は数少ない、1月9日という、日付が固定されているお祭りだ。その歴史は古く、元和3年・1617年と言われている。その頃、前橋八幡宮の周りでは、四と九の付く日に市が開かれており、その新年最初の市が、初市のルーツという。だから、1月9日という日付は、400年の歴史に裏づけられており、動かしてはならないと思う。
子供の頃から、私は別名の「だるま市」という名前で初市を認識していた。毎年この日になると、家族とまちなかに行き、我が家は招き猫を買う。なぜか知らないが、我が家はだるまではなくて、招き猫なのだ。今でもその影響で、私は招き猫を毎年買っている。だるまは数多くのお店が出ているが、招き猫は売っているお店が少なく、選ぶのが楽だ。お店に行き、予算の中でなるべく顔立ちの良い猫を我が家へお迎えする。そして、新旧の招き猫の引き継ぎを行い、新しい招き猫に仕事を始めてもらう。
ともあれ、たくさんの方が大きな丸い袋を提(さ)げて歩いているのが、初市の特徴だ。そして、お祭りの華は、露天だろう。初市は、江戸時代の市の名残か、唐辛子や刃物などのちょっとした道具などを売っているお店もある。子供のころ、千代田通りに出ていたお好み焼きの露天が好きだった。そこのお店は、焼き方が丁寧で、味も他とはひと味違った。もう40年近く前だから、そこでお好み焼きを焼いていた方も相当な高齢のはずで、もうしばらくお見かけしない。
そして、何より初市で私が心踊るのは、国道50号が通行止めになることだ。普段は車で走り、なかなか徒歩で行けない国道の上を、歩ける。一種の「道路で寝転びたい」に近い願望を叶えてくれる時間だ。やってはいけないことをしている背徳感がなんとなくあるのだ。歩いていると、車では気がつかない轍がけっこうあることに気づくし、やってはいないが、地面の上にしゃがんだりしたくなる。
去年の初市は、コロナの影響で縮小開催となり、八幡様の境内とその周りの道路上だけで行われた。境内の南側に露天が並び、前の道路にダルマのお店が並んだ。50号を通行止めしない寂しさもあるが、私は、「昔の市はこんな感じだったのではないのかな」と初市のルーツを感じ、改めて初市は八幡様縁(ゆかり)のお祭りなんだということを認識した。
今年は、国道50号が通行止めになり、規模の上では、例年に近づいた。しかし、多くのスタッフの方が街頭に立ち、「長時間の滞在はご遠慮ください」と案内をしたり、消毒液が置かれたりしていた。でも、多くの人で賑わっている光景は、やはり嬉しい。
日付が固定されていて、だるまを売り、400年間の歴史がある。初市は、間違いなく、前橋市民がこれからも守り続けていくべき行事だろう。
放送日:令和4年1月12日
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