そばかすの姫の勇気
アニメの映画を劇場で見たのは、娘たちと行った「アナと雪の女王」以来だ。
世界に知れ渡る「クールジャパン」アニメのことを全く要らない私が、先日「龍とそばかすの姫」を見に行った。
これは、私にはちょっとした挑戦だった。
名付けて「気持ち若返り作戦」である。
作戦名がすでに昭和風なところが、もうまずい。
ちょっと放置すればゴリゴリに固まろうとする自分の感性を、柔らかくみずみずしく保つために、普段の自分だったらしないことに敢えて挑戦する作戦だ。
「アニメなんてテレビで見ればいいやん。どうせお金出すならアカデミー賞とかの洋画にしたほうがいいって」そんな気持ちが出てくる。
感性をリフレッシュすることよりも、ゴリゴリの損したくない防衛本能が強すぎる。前評判がいいかどうかくらい、ググってみようか……いやいや。
そんな気持ちをぐっと、ぐぐっとこらえて、監督の細田守さんは「おおかみこどもの雨と雪」も作った人、くらいの前情報だけで劇場に入っていった。
冒頭から、そばかすの姫ベルの赤い衣装が花に変わっていく、アニメにしか出来ない、限界のない表現の美しさに、ただただ見とれてしまっていた。
そして、そばかすの姫の透明な歌声に劇場が包まれる。これは、実際に歌っているからこその、心に沁みる歌声だ。
創造の世界と、リアルのどちらもの最大限の美しさから映画は始まった。
これが「クールジャパン」なアニメなのか!
もう、これだけで元取ったと感じるほどだ。
物語は、バーチャルの世界の無限の可能性を彩り豊かに、リアルの世界の豊かな自然や思春期の心のひだを丁寧に、織り交ぜながら描かれていく。
アニメだかこそ描ける世界にどっぷりはまっていった。アニメを映画館で観るなんてもったいないと思っていた気持ちはすっかりなくなっていた。
バーチャルならではの単純な思いの暴走が巨大化、正当化されていく様や、人を裁くこと、暴くことが集団なら許されていくという闇の部分も描かれている。
私たち世代がバーチャルと聞いてアレルギーの出るところだ。その部分ばかりがクローズアップされて、闇の怖さだけをよく聞いていた。しかし、恐れて目を背けていてばかりいては、こんな無限の可能性に心躍る気持ちすら感じられなくなってしまう。
そばかすの姫は、バーチャルでは、自分を信じ、自分の正義を保ち続ける選択と勇気を何度も試されていく。
リアルの世界では、悲しみの渦から抜け出し、自分の殻を破り一歩踏み出す勇気を何度も試されていく。
くじけそうになりながら、泣きながら、助けられながら、そっと見守られながら……そばかすの姫はどちらの世界でも勇気を積み重ね、一歩ずつ成長していく。
バーチャルの世界で起きたことだとしても、批判を受ける心の痛みも、足のすくむような恐怖の思いも、リアルな感情だ。
痛みや怖さはどちらの世界にいても苦しい。仲間の応援や見守ってくれているあたたかさは、どちらの世界にいても心強い。
心はいつもリアルにあるのだから。
そんな当たり前のことにも、ハッと気づかされた。
勇気をもって一歩前に進もうとする挑戦を積み重ね、そばには応援をし、支えてくれる人が実はたくさんいることに気づくことで、自分に対して自信と信頼が出来てくる。
そうしてリアルでもバーチャルでも「自分の世界」を築いていけるのだ。
「自分の世界」を歩み始めると、自分のことで精いっぱいから大きく一歩成長し、周りが見えてくると、人を応援したり、支えていこうという思いが出てくるのだ。
そばかすの姫も竜の味方になり、助けたいという思いになる。
バーチャルでも、そして見ず知らずのリアルでも、だ。それはとてつもない大きな勇気だ。
その行動にハラハラし、自分にはそこまでの勇気があるだろうか? と自分に聞きながらそばかすの姫と竜を応援していた。
嬉しかったり苦しかったりに心が動き、人の思いにも共に喜び涙する人間臭い体験や、少しの勇気を積み重ね成長していくことを、リアルだけでなく、バーチャルでもできるお得な時代なのだ。
アレルギーを超えて飛び込んでいくとわかってくる。
私自身も、年齢に尻込みしながら、おそるおそるオンラインサロンに入った。勇気をもって始めていくと、思った以上に年齢は関係なく、みんなが親切な世界だ。
リアルではきっと一生かかっても出会うこともできない、年齢も生きる環境も全く違う友人が、オンラインでたくさんできた。バーチャルの友人もリアルで会えば、昔からの親友と全く何も変わりない。
いくつになってもバーチャルに「自分の世界」を作り出すことはできるのだ。
アニメは子供のもの、バーチャルは得体のしれない怖いものと思っている人には、この映画を見てゴリゴリの感性をほぐす体験をして、恐れずバーチャルの世界も知って、これからの人生も謳歌してほしい。
バーチャルをすでに堪能している人たちには、リアルもバーチャルも「自分の世界」を居心地よくするのは、ほかならぬ自分の勇気の積み重ねであることを感じてもらえるのではないかと思う。
勇気を出して「自分の世界」を作れたら、次は人を応援し、支えていくのだと、そばかすの姫は伝えてくれている。