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【レビュー#11】うさぎやすぽん『キミの青春、私のキスはいらないの?』レビュー

 こんばんは。灰澄です。
今回は溜めに溜めて、読んでから溜めに溜めてしまった、ラノベ作品のレビューです。

 ラノベのレビューって鮮度が大事だと思うんですが、最新作というわけでもない作品を読んでから3ヶ月経って語る記事なので、感想の方をちょい深堀りめに書こうと思います。レビューしたい作品が2作品あるので、あまり間を置かず、もう1作についても記事を投稿します。

思春期のめんどくせぇ痛みの記憶

 さて、今回レビューする作品は、うさぎやすぽん『君の青春、私のキスはいらないの?』です。
 タイトルから察するように、ラブコメです。ラブコメなんだけど、ラブもコメも主意ではないと思う。ジュブナイルというか、思春期内省ドラマというか。

 我々(誰を含んでるんだ?)は心の真ん中に消えない思春期の傷を負って生きているので、思春期内省ドラマというのはつまり、「おれたちの傷の物語」という意味です。

 
「意味の無いこと」が嫌いな主人公、黒木が、「意味の無いこと」が好きなヒロイン、日野と、キスという「意味の無いこと」をめぐって勝負という名のデートを重ねる……

というのが本作のあらすじ。

 物語中盤までは、どう見てもデートでしかないイベントに「勝負」という名前をつけて学園生活を謳歌する、というラブコメ的な七転八倒なんだけど、本作のキーワードである「意味のないこと」を殊更に意識する二人の、特にヒロインである日野の内面に踏み込む場面から、空気が変わります。

 原則としてネタバレ無しレビューの記事なので物語の具体的な内容には触れないけれど、二人がなぜ「意味の無いこと」が嫌いで、好きなのか、という理由は、極めて個人的なものでありながら、きっと読者である我々も感じたことのある人生の徒労感と深く関係している。

 「意味の無いこと」が好きか嫌いか、という問い自体が「意味」の存在に拘っている証左であって、自分の人生や、信じていたもの、直面した困難、挫折といった、自意識を取り巻き、揺るがす諸物にはきっと意味がある(あった)はずなんだと信じたいという叫びの言い換えなのだと思う。

 色々なことに苦しんでいたり、納得できない不条理に憤ったりしているはずなのに、なんとなく平凡で多分そこそこにハッピーな日常を享受できてしまっている自分に、どうしようもない焦燥や失望を覚えて、ドラマの外にはじかれてしまったような所在の無さを持て余している、だから「何か」でありたい……とか。

 覚えがありませんか? 僕はめちゃくちゃあります。

 そういう思春期(的な精神)の面倒くさくて、平凡で、切実で、逃れようのない例のアレを、「ライトノベル」、「キャラクターコンテンツ」、「アニメ的文法」といったフォーマットに乗せて、一見すると「ラブコメ」という形を取りながら(実際ラブコメではあると思うけど)、終盤に向かうにつれて徐々に染み出すように表現している作品、というのが個人的な解釈です。

 これは手を変え品を変え繰り返し描かれてきた、普遍的なテーマなのだと思います。いつの時代に描かれた何から、今描かれている何までを対象に共通のものを見出しているのか、ということについてここで厳密に言及はしませんが、「息苦しさ」だったり「生きにくさ」だったり、ただ「生きていく」を純朴に享受することが難しくなってしまった精神の、不安や滞りや足掻きの様は、少なくとも思春期に本を読み耽ってしまった(しまっている)人には無縁ではないということは、こういうnoteを読んじゃう人にとっては、もはや言うまでもないことでしょう。

 こういう話は、あらあゆるジャンルに散りばめられて、常に描かれていて欲しいです。だって消えない傷なので。

 なんかパターン読みみたいなことを沢山書いてしまったけれど、そういうことが言いたいわけではないです。
 主要の二人に焦点が当たっているものの、他のキャラクターも魅力的で、共通したテーマに対するそれぞれの視座が、終盤に向かって収斂していく様にはカタルシスがあります。物語の起伏のテンポが良くて、スルスルと読めるのも良かった。

 ライトノベルに疎い自分としては、普段読まないジャンルの作品で自分の好きな読後感になれる、というお得体験な一冊でした。

 言わずがなというか、本作は、以前ラジオに出て頂いた(そして配信に呼んで頂いた)ラノベオススメVtuberの久利大也さんにオススメして頂きました。まだそこまで長い時間お話しできているわけではないんですが、オススメの精度が高すぎて怖い。流石です。

大也さんのチャンネル

灰澄がお呼ばれした配信

大也さんゲスト回のラジオ


 ちなみに、2023年10月現在、本作は2巻まで出ているみたいです。でも1巻の終わり方が綺麗なので、シリーズ物と構える必要は全然無いです。

 覚えのある痛みに触れて、でも最後には決して誤魔化しではない爽やかさを残してくれる、ビタースイートな物語に出会いたい方にオススメです。

 それでは、今回はこのへんで。
 また次回の記事でお会いしましょう。

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