フィリピンで聞いた怖い話②【早朝の学校で見たもの】
一緒に現場で働いてるセドリックから聞いた話。
セドリックは現場の仲間の中でも一番若い22歳。そしてフィリピン人にはめずらしい細身。
「おう、ちゃんと食ってるか?」「食べてるよ~」
なんて会話を会う度するくらい、ちょっと心配なほど痩せているのだが、まぁフィリピン人は20代半ばくらいを過ぎるとみんな下っ腹がぽっこり出てくるので、取り越し苦労かもしれない。
そんなセドリックとある晩二人で仕事をしていた。周りに他の作業員はいない。作業がひと段落したところで、二人で一服した。色んな雑談をする中で、やっぱり気になってたことを聞いてみた。
「セドリックは、幽霊見たことある?」
「—――あるよ・・・。」
連日の夜勤でさらに痩せこけ、少し窪んだように影をたたえた眼窩をこちらに向けながら次のような話をしてくれた。
セドリックが高校4年生(16歳ごろ)の話。その日、明け方の4時に学校に行った。
「4時って早すぎないか?!」と思わず突っ込むと、なんでもセドリックの学校は始業が5:30くらいで、めちゃめちゃ早いらしいのだ。
これがフィリピンの高校一般的なのかは、セドリックも分からないそう。そんな学校にしても、流石に4時登校は早すぎた。学校に着いた時は自分以外誰もいなかったそうだ。
なんでそんな早く学校に来たのか、セドリックも今じゃ思い出せない。とにかく、セドリックは自分の教室へ向かった。自分の教室は2階のいちばん奥。そこへ行くまでに、ふたつの教室の横を通り過ぎる。
教室は廊下に向けた窓がついていて、廊下から中が見える。2つ目の教室を過ぎた時、その中に何かが見えた。
見ると、女の人の後ろ姿があった。黒板の前に立ち、何かを書いてる。背格好からして、生徒ではなく先生のようだ。若い、女性の先生だ。
「こんな先生いたかな?それにしても、こんな朝早く真っ暗な教室で何やってるんだ・・・?」怪しく思ったセドリックは、教室後方の窓からそうっと覗き込んだ。
その女性の周りに、何かが浮いているのが見えた。それはまるで白いオーラのようなものだった。普通じゃない。その時点でセドリックに悪寒が走った。
すると突然、その女はくるりとセドリックの方へ振り向いた。女の顔は人間とは思えないほど青白かった。彼女の目、その周りは黒だか赤だかドスの効いた色で縁取られ、すさまじい眼光を湛えてセドリックをにらみつけた。そしてなによりセドリックを震え上がらせたのは、その首元から、真っ赤な血を滴らせていたことだった。
セドリックは悲鳴を上げて逃げた。そして一目散に一階の守衛室へと駆け込んだ。誰もいない学校とはいえ、守衛さんだけは常駐していたそうな。守衛さんに今見たものを話し、一緒に教室を見に行ったが、そこには誰もいなかった。
ビビりまくったセドリックは、その後この話を学校の色んな人に話まくった。ある人は信じ、ある人は笑った。
ある日、セドリックの幽霊話を耳にしたある先生が、セドリックのもとに来てこんなことを言ってきた。
「それはきっと、この学校で死んた先生だよ」
聞くと昔、まだ20代前半の若い女性教師が学校で亡くなったそうだ。
それも殺人。レイプ殺人だった。
なんとも恐ろしいことに、この学校で、そんな陰惨な事件が過去にあったというのだ。どんな先生で、いつどのように、なぜ襲われたのか、詳細は不明だ。その先生も詳しくは知らないと言う。犯人が捕まったかどうかも分からない。というのも、学校の校長たちが口外しないという。
セドリックがこの話をしていて女の霊の描写に差し掛かった時、少し間をあけて、「ファック。鳥肌が立ってきちゃったよ」と言って笑いながら身震いしたのが、リアルだった。
「それは、人生で一番怖い体験だったね」
僕がそう言うと、
「いや、本当に怖かったのは、別の話だよ・・・」
本当に?!じゃその話もしてくれ!僕が無邪気にそう頼むと、セドリックは少し考えるようにタバコをふかしてから、「聞いてから後悔しないでくれよ。これも、本当の本当の話なんだから・・・」そう言って次の話を聞かせてくれた。
これが、非常に強烈な話だった。
その話はまた次回—。