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フィリピンで聞いた怖い話④【ドッペルゲンガー 従姉篇】

休憩時間にセドリックと2人でコーヒーを買いに行った際、いつも通りぺちゃくちゃお喋りしながら歩いていた。

くだらない話をしていたのだが、話の折にセドリックが「まるで”ガンガー”みたいだよね」と呟いた。

「ガンガー?何それ」
「ガンガーだよ。知らないの?」
「フィリピン語?知らないよ」
「フィリピン語じゃないよ。ほらあれだよ、自分とそっくりな他人がいて、そいつと会うと死んじゃうっていう・・・」


・・・・ああ、”ドッペルゲンガー”のことか!

ドッペルゲンガーを”ガンガー”って言い方するのは知らなかった。一般的なのかわからんけど。(ポケモンのゲンガーを思い起こす)

とにかくもドッペルゲンガーなら知ってる。「今分かった。知ってるよ」と言うと、唐突にセドリックは「junはガンガー見たことある?」と聞いてきた。

―もちろん無い。そう答えると、セドリックはニタっと笑った。ひょっとして・・・お前はあるのか?僕が聞き返すと

「俺もないよ。でも、従姉があるよ・・・」

聞きたいだろ?そういう話好きなんだろ?僕の心中を見透かすようにニヤニヤ笑うセドリック。ご察しの通り、僕はぜひ詳しく聞かせてくれと懇願した。

ショーパオ(肉まん)が食べたい、とねだるので大人しく奢ってやった。コーヒー屋の丸椅子の上でパクつきながら、満足そうな顔をしてセドリックは語り始めた。



これは昔、セドリックの親戚の家で起こった話。まず、その家の住人構成が少し複雑なので説明したい。

その家はセドリックの叔母さんの持ち家なのだが、叔母さん自身は海外に出稼ぎに出ていてその家に住んでいない。しかし叔母さんの娘、つまりセドリックの従姉の女の子(セドリックより3つほど年上)がそこに住んでいた。仮に彼女の名前をマリアとしておこう。

流石に女の子1人で一軒家住むのも色々大変なので、“別の”叔母さんが同居していた。セドリックのお母さんでもない、別の叔母さんだ。さらにその叔母さんの子供が2人。男の子と女の子の兄妹。この4人が、この家に暮らしていた。


今から5年くらい前のこと。夕方くらいに近所の親戚の叔母さんがその家を訪ねた。ミシンを借りに来たそうだ。(これは住んでいるのは”また別の”叔母さんだ。フィリピン人は親戚同士集まって暮らしているので、日本と違って親戚関係が複雑でややこしい・・・)


家に入ると、住人のマリアがいた。その時は家に居たのはマリアのみだった。マリアにミシンを貸して欲しいと頼むと、「2階にあるから勝手に上がって持って行って。私はこれから買い物に出掛けるから」と言って彼女は家を出て行った。

叔母さんが2階に上がってミシンを探していると、1階から何やら物音がする。気になって下に降りて見ると、さっき出て行ったはずのマリアが階段の下にいた。

「あれ、出掛けたんじゃないの?」
叔母さんが尋ねると
「うん。トイレ使いたいから戻って来た。」
と言ってトイレに入って行った。

その後ろ姿を見届けた後、叔母さんは再び2階に上がってミシンを探した。すぐに見つかったので、そのまま帰ろうとまっすぐ下へ向かった。家を出る前にひとこと言おうと、まだトイレにいるはずのマリアに向かってドア越しに声をかけた。

「ミシン見つかったわー。ありがとー」
しかし、返事はない。

先ほどマリアが入って行く姿を見てからほとんど時間は経っていない。まだトイレの中にいるはずだ。何度か声を掛けても返事はおろか中から物音ひとつしないので、心配になった叔母さんは、そっとトイレの戸を開けてみた。


中には誰もいなかった。

叔母さんは狐につままれたような気分になった。あれ?ついさっきまでいたのに・・・?

1階の他のどこの部屋にもいる様子は無い。どこか別の部屋にいたとしても、これだけ呼び掛けて返事すらしないなんて、おかしい。


すると突然、2階から声がした。「〇〇~!」と叔母さんの名前を呼ぶマリアの声だった。

叔母さんは言いようのない不気味さを覚えた。先ほどまで自分は2階にいたのだ。すれ違ってなどいない。だからマリアが2階に移動しているはずなどない。それでも呼び声がするので、叔母さんは恐る恐る2階に上がった。

誰もいなかった。

こんなの、おかしい。確かにマリアの声だった。先ほどトイレに入って行ったのも、間違いなくマリアだ。なのに、姿が見えない。普通じゃない。ひょっとして、アレはマリアの姿をしてマリアでは無いのでは・・・?

恐怖を覚えた叔母さんは逃げるように玄関から飛び出した。玄関を開けると、そこで思わず悲鳴を上げてしまった。そこには買い物袋をさげたマリアの姿があった。

「マリア?!あんた、どこにいたの??!」
「どこって外だよ。買い物行くって言ったじゃん。今、帰って来たところだよ」
マリアはキョトンとした様子で答えた。

マリアが嘘をついている様子は無かった。嘘だったとしても、こんなに風に人間が瞬間移動できるはずがない。叔母さんは今の出来事をマリアに話した。2人で一緒に家に上がり見てまわったが、誰もいなかった。にわかに信じ難い話だったが、叔母さんの怖がり方が尋常じゃなかったので「きっとなんかの勘違いだよ」と笑うマリアの心中も穏やかではなかった。


「なるほど。そりゃ確かにドッペルゲンガーみたいな話だね。ちなみにその後、またマリアのドッペルゲンガーが出たことってあったの?」僕が尋ねた。

「”マリアの”ガンガーはないね・・・」

含みのある言い方でセドリックは話をしめた。

”マリアの”・・・?なんだそりゃ、じゃ別のドッペルゲンガーはあるのか?

「うん。この家では、もう1回ガンガーが出たんだ。マリアとは別人だけどね」

もったいぶりやがって!その話もしやがれ!

そう言うと「明日にしよう。うん、明日の休憩時間、またコーヒー買いに行ったときにでも・・・」と言って不敵に笑うセドリック。完全に味をしめた顔だ。

別に怖い話を取引にしなくたって普段からパンだのジュースだのしょっちゅう奢ってあげてるので、あまり意味のない行為だ。ちょっとしたイタズラ心だろう。面白いので僕も乗ってやった。あんまり高いものをねだられないことを願いながら、僕らは仕事場へ戻った。

そして翌日聞かせてもらった「もうひとつのドッペルゲンガー話」、これがさらに気味の悪い話なのであった・・・。続きは次回。



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