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サーガ オブ サーコ -サーコウイルスが紡ぐ深遠な物語-
少し早めに仕事納めをして、帰省先の実家でnoteの記事を書いています。本記事が今年最後の記事になるのですが、2024年の最後を飾るにふさわしいテーマについてお話ししようと思います。
2024年最後のテーマは『豚サーコウイルス』を取り上げたいと思います。
養豚関係者なら知らない人はいないという豚サーコウイルス(Porcine Circo Virus、以下PCV)ですが、なぜPCVが2024年のラストにふさわしいのか?
実はPCVが最初に発見されたのが今からちょうど50年前の1974年、つまり2024年はPCVの発見からちょうど50年目の節目にあたる年になります。この50年の間にPCVはさまざまに変異を続け、あらゆる意味での”拡がり”をみせてきました。本気記事はPCVの現時点での最新知見を紹介しつつ、タイトルにもあるように50年の長きにおよぶサーコウイルスのサーガ(長大な物語)のごく一端をご紹介できればと思います。
まずはPCVについてごく簡単な説明を。
PCVは豚に感染するウイルスの病気です。PCVは免疫を抑制するため感染した豚はさまざまな病気にかかりやすい状態になります。その結果、ヘッダーにある写真(出展元 pig333)のようなやせ細ったガリガリの豚になってしまうやっかいな病気です。
ウイルスには抗生剤も効果はないため、長らく対策が難しい病気でしたが、2006年に登場したワクチン(日本での発売は2008年)が状況を一気に好転させます。あれだけ苦労したPCVがワクチンを接種することで「はい、優勝!」の無双状態となり、生産性そして事故率は大きく改善しました。
しかし”盛者必衰のことわりを表す”という言葉が示すように、無双状態は長く続きません。個人的な感覚では2016‐2017年頃から、ワクチンを接種しているにもかかわらず以前のようなPCVの症状を呈する豚が散見されるようになってきました。詳しく調べてみたところ、PCVの中でも2dと呼ばれる型(PCV2d)が検出されました。PCV2dは世界的にもそれまでの型(PCV2b)を押しのけるような感じで優勢となっており、日本もその波に飲み込まれた形になりました。それ以降、2006年のワクチン出現以前ほどではないものの、常にウイルスの動きに注視しなくてはならないやっかいな存在であると言えます。
PCVの分類はこれまで1型と2型という大きな分類があり、上述の2bや2dというのは2型(PCV2)の枠組みの中でさらに細かく分類した型ということになるのですが、近年は3型(PCV3)そして4型(PCV4)という新たにカテゴライズされるPCVの出現が立て続けに報告されています。
下の図は今年2月に実施されたwebinarにてTanja Opriessnig氏の講演を参照にしたものです。
![](https://assets.st-note.com/img/1735370785-qdv8hU7ePHGXWRJI0VysTOp5.jpg?width=1200)
PCV3の症状などについてはいまだ不明な点も多いのですが、病態や症状は徐々に明らかになってきています。
主な症状としては、
・繁殖障害(流産など)
・PDNS(豚皮膚炎腎症症候群)
・心筋炎や動脈周囲炎
などの発症に関連があると推測されています。
PCV4は4つの分類の中でもっとも新しい型であり、現段階で中国、韓国、ベトナム、タイ、マレーシアとアジアの国に加えて、スペインで確認されています。症状などはレポートなどを見る限りこれまでのPCVと似た症状を呈するように見えますが、PCV3同様まだまだ不明なところも多く、詳細についてはさらなる続報を待つ必要があります。
50年の間にこれだけの変異を続けてきたPCVですが、実は他のサーコウイルスにも近年大きな動きが認められています。
特に注目されるのはヒトに感染するサーコウイルス(HCirV)の存在です。2022年に中国で、そして2023年にはフランスで相次いで発見され大きな注目を集めています。ウイルス性肝炎の発生に関与しているのではという見方もありますが、こちらもさらなる慎重な検討が必要のようです。
50年の長きに渡って進化を続けてきた豚サーコウイルス、そして豚以外の動物種にも徐々に感染拡大を続けるサーコウイルス。サーコウイルスの深遠な物語はまだまだ続きそうです。