見出し画像

その手があったか!-驚きの股開き対策

股開きは産まれたばかりの子豚にみられる運動器障害です。
ヘッダの写真のように、文字通り肢が開いたままの状態になり(後肢が圧倒的に多いが前肢で起きることもある)子豚は起立することができません。
活力のあるたくましい子豚は前肢の力だけで体を起こして移動もできたりするのですが、やはり健常の子豚に比べると機動力に劣り、哺乳するのにもひと苦労となります。

対策は昔から下の写真のようなテーピングを施してあげる方法が知られているのですが、実際にやってみるとなかなか面倒で実施されている現場は少ないのではないかというのが正直なところです。

股開きのテーピングの一例

先日もとある現場で股開きの対策を訊かれ、「あまり実践されてる方は少ないんですけどね…」とExcuseを入れながら上記のテーピングの動画をお見せしようとしたところ、思いもよらぬ股開き対策の動画がヒットしました。

YouTubeの「Caring for Splay-Legged Piglets: A Comprehensive Guide」というタイトルの動画ですが、ここではいわゆる結束バンドを使った方法が紹介されています。

結束バンドを使った股開き対策

これを見た瞬間生産者さんとふたりで「おおっ!」と声が出たほど驚きと衝撃。生涯でもそうそうお目にかかれないレベルの”目からウロコ状態”。
こんな方法があったとは!

輪っかにした結束バンドを準備して足に巻き付ける
両肢の間隔も調整可能

この結束バンドを使った方法が白眉である点は、①結束バンドがどこでも入手可能かつ安価であること、②比較的簡単に装着が可能、③微妙な調節も可能、であることだと思います。

動画の中では24時間後にニッパで結束バンドを切断し、無事子豚が歩ける状態になっている姿が紹介されています。
動画をいっしょに発見した生産者さんでも現場で試していただいたところ最初はやはり調節が難しく輪っかが肢からずり落ちるなどしていたようですが、すぐにコツが掴めて、次の日歩けるようになったとこのことでした。
素晴らしい👏👏👏

上記のYouTube動画では股開きの子豚が立って歩けるようになる過程が記録されているのですが、ここで私はあることが頭に引っ掛かりました。
「なぜこの子豚は歩けるようになったのだろう?そもそもの原因は??」
ここから意識は思考の海に深く潜っていくことになります(何か意識に引っ掛かることがあった時の私の子供のころからのクセ)。

テーピングや結束バンドで強制的に起立姿勢を保たせることで、筋肉に適度な負荷がかかり、筋肉と神経の間にある接合部(神経筋接合部といいます)の不具合が補正され正しく機能し始めることで起立と歩行が可能になっている?
そもそも筋肉の動きというのは基本的に神経からの命令に従っていて、その中心的な役割を果たすのがアセチルコリンという物質。
となるとアセチルコリンの量が増えるような注射(たとえば抗コリンエステラーゼ)をしてあげることで子豚は立って歩けることも可能になるのだろうか……?

アセチルコリンと筋収縮の仕組み

もし筋肉への刺激がアセチルコリンの放出増や、筋肉の動きをつかさどる運動ニューロンを反射的に刺激することが有効であるなら、よく整体なんかで使われている電気治療も股開きに有効なんだろうか……?

接骨院・整骨院で使用される電気治療 電気刺激により筋肉の収縮/弛緩の繰り返しを促す

いずれも突拍子もないアイデアですが、ブレイクスルーを産み出すのはふとした瞬間に頭によぎる一見破天荒なアイデアだったりすることが往々にしてあります。
意識に何かが引っ掛かる=心が動いた証拠。その瞬間を逃さず、深く考察する時間を個人的に大切にしています。

ちなみに。
現在股開きの原因は遺伝的な素因が大きく関与しているとされています(特に神経伝達に関与するHOMER1や、筋収縮に関与するFBXO32などの遺伝子に異常がある可能性が示唆されています)。

いいなと思ったら応援しよう!