見出し画像

緊張が広がるアメリカ国内における高病原性鳥インフルエンザの動向

先日(12/3)宮崎県川南町で今シーズン12例目の感染が確認された高病原性鳥インフルエンザ(以下HPAI)ですが、日本のみならず海外でも大きな話題になりつつあります。今年アメリカでは養牛そして養豚において特に警戒が必要なH5N1型のHPAI感染が初めて確認され懸念が広がっています。
アメリカでのHPAIは現在どのような状況なのか?
11/20に有識者を集めたアメリカ国内のHPAIに関するWebinar(H5N1 Influenza Risk to US Swine)が開催されたのでその概要をまとめてみたいと思います。

まず養牛におけるHPAIですが、初発は今年の2月。テキサス州の獣医師が地元の複数の農場において異常な症状を認めたことから始まります。
直ちに対策が講じられ検査の結果、3月末にH5N1型のHPAIの感染が確認され、遺伝子検査の結果それらのウイルスは渡り鳥からもたらされたことが明らかになりました。

養牛におけるHPAIのポイントを箇条書きにまとめます。
✓ 致死率は2-5%と高くない(罹患率も20-30%と高くない)
✓ 現時点で感染が確認されているのは乳牛のみで、肉牛での感染例はなし
✓ 臨床症状としては、食欲減退、粘り気のある糞、乳量が低下し、粘度が高く黄色い初乳のような乳が出る
✓ 肺炎や乳房炎など二次感染に繋がることもある
✓ 感染拡大が早い
✓ バルクタンクのPCR検査が陽転になるのは、症状がピークを迎える10-14日前
✓ 乳汁が感染源となっている可能性が高い
✓ 加熱処理された乳製品は人体に対するリスクはほぼ排除できる

続いて養豚におけるHPAIですが、養牛での感染確認からおよそ8か月後の2024年10月オレゴン州の一般家庭からの通報がきっかけとなりました。
Google Mapによる空撮写真で見ると、養豚場ではなくほんとうにごく普通のアメリカの一般家庭ということがわかります。

アメリカ国内で養豚のHPAI感染が初めて確認されたオレゴン州の一般家庭

写真からもわかるようにアメリカでは地方に行くと一般の家庭であっても日本では想像ができないくらい広大な土地を庭として所有しているケースがめずらしくなく、そこではあらゆる種類の動物が飼われていたりします(むこうでは馬も犬や猫と同じペットという感覚なのがすごい)。
写真の家庭でも多くの動物を飼っていて、その中には豚としてはKunekune(ニュージーランド原産の小型豚。発音は”クニクニ”に近い)やミニブタ(teacup pig, teacup mini)が含まれていました。

Kunekune ニュージーランド原産 マオリの言葉で「脂肪」や「丸い」を意味する

最初の通報は「庭で鳥が死んでいる」というものでした(10/22)。
USDA(日本の農水省に近い)のスタッフが現場にかけつけたところ、アヒル3羽、ガチョウ1羽、クジャク1羽が死亡が確認されました(鶏や七面鳥、ホロホロチョウ、ウズラなどの死亡は確認されず)。
その日のうちにサンプルを採取し、翌日全サンプルでHPAIの仮陽性が出たことから殺処分が実施されました。その後より詳細な検査により2頭の豚の複数の臓器などからHPAIウイルスが検出されました(豚1頭が死んだ鳥を食べていたという証言もあり)。

感染経路についてですが、写真にあるように家のすぐそばに池があり、そこにやってくるHPAIを持った水鳥との接触がHPAI感染の原因ではないかと推測されています。飼育されていた動物はいわゆる”放し飼い”の状態であり、バイオセキュリティ(病原体や有害生物の侵入を防ぐ措置)の観点からすると、「Exposures happened that shouldn't」(あってはならない接触が起きてしまった)ということになります。

現時点で日本国内においてH5N1型HPAIの牛や豚への感染は確認されていません。ただ2020年以降日本国内においてHPAIの感染事例は増えており(野鳥や家禽)、確率としてはかなり低いものの条件次第では(接触状況など)感染リスクはゼロではありません。
鳥インフルエンザのシーズンはまだ始まったばかり。養鶏だけでなく畜種を越えた連携そしてバイオセキュリティの強化が必要になってきている時代かもしれません。

ちなみに同webinarではBailey Arruda氏がHPAIについての詳細なデータを紹介しているのですが、同氏は生まれたばかりの子豚が小刻みに体を震わせるダンス病の原因(ペスチウイルス)を特定したことで知られています(女優さんのように美人!)。

いいなと思ったら応援しよう!