
極私的”立てない母豚を立たせる”方法
先日とある現場に行った際、「この母豚(妊娠中)が急に立てなくなったんです。診てもらえますか」という相談を受けました。
問題の母豚は意識はあるものの(やや目はうつろな印象)完全に横臥状態で立ち上がれない様子。状態をチェックしようと脚などを触ると痛みがあるのか大きな鳴き声。見える範囲では外傷などはなし。一見なかなか難しい状況です。
「母豚が立てなくなった」「脚悪なんだけど」というご相談をいただくことは結構多い印象です。近年は効率重視のため何かトラブルがあった場合は深入りした治療はせず早い段階で淘汰更新する傾向がある印象ですが、個人的には一頭一頭を大切にして欲しいという思いがありますので、なんとか治療して元気に立てるようにしてあげたいという思いがあります。
起立不能になるケース(母豚のケースがほとんど)は原因はさまざまであり適切な治療をする必要があるのですが、診断の細かい点はこの記事では割愛させてもらって、治療がある程度奏功つまり回復傾向が見えてきてから個人的に重要なポイントだなと思っていることをお話させていただこうかと思います。
重要なポイント、それはどこかのタイミングで補助を入れながら無理やりでも立たせる、つまり”リハビリ”をしてあげるということです。
なぜリハビリが必要なのか?今回のケースに沿って説明したいと思います。状態を見て診断と治療を行い、5日後再度農場を訪問しました。相変わらず起立不能の状態が続いているとのことでしたが、豚の状態をチェックしたところ先日にくらべて目のうつろさは消えて、顔色や肌の色も良くなっていたように感じました。
ここで現場スタッフの手を借りて、母豚を起こすことにしました。最初は起こそうとするだけで嫌がって声をあげていたのですが、いったん立つと柵にもたれながらも起立姿勢を保つことができ、ゆっくり水飲み場まで歩いてしばらく水をゴクゴク。相当喉が渇いていたのでしょう。
母豚は体重が200㎏をゆうに超える巨体であるため、一旦歩けない状態になるとなかなか自分で立つことがめんどくさくなる、あきらめてしまうのではないかと想像します。
今回のケースでも治療をしてある程度体調が回復しており立って歩く素地はできていたはずですが、当の本人はあいかわらず「わたしもうダメ…」という悲壮感を漂わせていました。数人がかりで立たせる時も「もう無理だって言ってるのに!!」と嫌がって声を出していたんですが、いったん立つ姿勢が取れると「あれ?わたし立ててる?」と驚いたようにピタッと鳴きやんで、前述のとおり自分から歩いて水を飲みに行きました。
今回のケースのように立てない母豚を再び立てるようにするには治療だけでなくリハビリと組み合わせる必要があると感じています。
リハビリをすることで母豚に立つことができるんだと理解させる必要があるということです。
立てる条件が整っているのにリハビリをしないと、母豚は寝たままの状態が続くことになります。そうするとどうなるか?寝たままだとエサの摂取量がどうしても不足するためエネルギがどんどん減っていきジリ貧状態におちいることになります。もしその母豚が妊娠をしている場合は妊娠を維持することができなくなり、流産します。加えてずっと横臥状態だと褥瘡いわゆる床ずれなどもできてしまいこうなると完全に”負のスパイラル”に陥ってしまいます。
ヒトも含めて生き物は食べれなくなったらおしまいなのです。

上の図のように治療することで歩ける素地を作りつつ、タイミングを見計らってエネルギが枯渇する前にリハビリをしてもう歩けるんだということを母豚に理解させる、これが立てなくなった母豚を立てるようにするコツではないかと考えています。
今回の母豚ですがリハビリをした7日後農場で確認したところ、柵にもたれることもなく軽やかな足取りで歩いていました。妊娠鑑定をしたところ流産もせず妊娠を維持しており無事分娩を迎えることができそうです。
起立不能の豚、脚悪の豚に関しては思うところがありある程度体系だった考えがあるのですが、それはまた別の機会に。