野球おんち
野球音痴である。
正確には、野球観戦音痴とでも言うのだろうか。
ルールぐらいは知ってる。
学生時代は体育なんかでやらされたから。(そのレベルである。)
でも、選手の名前を挙げてみろと言われると、困る。
うーん。。
掛布、田淵、バース、赤星、イチロー、衣笠、まる?、えーと。。ああそうか、王、長嶋、江夏、それからなんか耳の大きな。。なんだっけ。。江川!
以上。
(頭を思いっきり振ったら、あと2,3人は出てくるかもしれないが。)
だから、熱烈に応援している球団というのも、当然、無い。
ただし、関西で社会生活を営む以上、一応誰かに聞かれたら、身の安全を守るため「阪神ファンです」と答えるようにしている。
もちろん、差しさわりの無い相手なら正直に「野球音痴です」と答えることにしているが、そうもいかないことがある。
以前、仕事のあいさつ回りで、とある現場にお伺いしたとき、僕が名前を言うか言い終わらぬうちに、現場のボスのAさんがニコニコしながら開口一番、「野球はどこファンですか?」と尋ねてこられたことがある。
目が「ちゃんと答えろよ」と言っていた。なんだかよくわからない周囲の緊張感があった。
咄嗟に「阪神ファンです」と答えたら、
「あ、そーですか!それはよかった。ま、これからよろしく!」
後で、同行していた上司が、
「おまえ、良かったな。一瞬血の気が引いたぞ。おれなんか。。」
その上司は、熱烈な巨人ファンだった。
そういえば、上司はその現場とあまり上手くいってなかったな。
僕はといえば、逆にその後その方が退職されるまで、公私ともにずっと仲良くして頂いた。仕事も極めてスムーズに進んだ。
嘘は言っていない。
小さい頃は甲子園球場に歩いて行けるところに住んでいたし、阪神電車に乗っていたし、何かと「阪神」に親しみを覚える下地があったのである。
「巨人の星」を見ていても、主人公の星投手より花形の方がカッコイイと思っていたし、なんとな~く阪神が好きだったみたい。
ほら、それが証拠に、最初に挙げた選手の名前も、掛布やバースが最初に出てるでしょ?「いつの時代だ!」というツッコミは置いといて、一応阪神が好きなんです。(ということにしておいて欲しい)
野球観戦に興味が無い。
子供の頃、甲子園の近くに住んでいたのに?
好きな人からしたら、「なんて勿体ないことを!」と思われるかもしれない。
僕は食わず嫌いと言うのはイヤなので、観戦に行ったこともある。
えーと。。初めて観に行ったのはいつだったかな。
ああ、思い出した。小学校高学年のときに「阪急ブレーブス子供会」というのに入っていたので、
(裏切者っ! 阪神ファンだなんてやっぱり嘘じゃないか!)
いや、別に阪急が好きで入ったわけじゃない。
それに、一応阪神と阪急じゃリーグが違うことぐらい知ってるぞ。
実は、甲子園球場の近くから西宮球場の近くに引っ越したのだ。
周囲は今までとは一変して、阪急ファン一色。クラスの友達に誘われ、入会した。
確か、300円ぐらいの入会費で1年間有効。
阪急ブレーブスの試合なら、タダだったか、格安で観戦できた。
だが、僕にとってそんなことはどうでもよくて、会員証と一緒にくれる白いパスケース。これが欲しかった!
当時、定期券を始めとしてパスの類はバーコードも磁気ストライプも無く、人に見せるだけだった。透明な窓のついたパスケース。大人はこれに定期を入れて、警察手帳みたいに改札口でサッと見せてスッと通り抜ける。
これに僕は憧れた。パスケースさえあれば、僕は少し大人になれるような気がした。しかもブレーブス子供会でくれるパスケースは、大人の持っている黒じゃなくて、白。余計に憧れた。
パスケースに釣られて入った阪急ブレーブス子供会。
一度だけ、友達と一緒に西宮球場に「歩いて」行った。
ふ~ん。
大人のマネをして、大声で声援もしてみた。
へ~。
見る視点を変えたら興味がわくかもと、席を移動してみた。
う~ん。
この試合の事は、何も覚えていない。
もちろん、選手の名前も、誰一人覚えていない。
ただ、パスケースと会員証は大事に持っていた。それを持つことが、嬉しかったのだ。
2回目は、大人になってから。
お見合いの相手が、大の野球好きだった。
誘われて、神戸のグリーンスタジアム(当時の名前)に行った。
雰囲気が良い、綺麗な球場だな、と思った。
「イッチロ~さ~ん!!♪」
彼女がメガホンを叩きながら、黄色い声を飛ばす。
ああ、あれが有名なイチローさんか。面白い構え方をするんだな。
「わしも一郎やで~、応援して~」
横にいたおじさまが、ありきたりの冗談を飛ばしていた。
だが、その日のイチローは、大した活躍が無かった。
ふ~ん。。あれがイチローなんだ。
「We love KOBE 頑張ろうや」
上腕に震災復興のワッペンを付けたイチロー。
確か、その年にオリックスブレーブスが日本一になったんじゃないだろうか。車で走っていたら、たまたま優勝パレードとすれ違ったのを覚えているから。
イチローはその後アメリカに行ったから、今にして思えば貴重な姿を見ていたのかもしれないが、悲しいかな僕にはその価値がよくわかっていない。
ただ、震災の被害にあった僕には、あのワッペンを付けて頑張って優勝してくれたことが何だか嬉しかった。
3回目は、ごく最近。
でもコロナ前だから、もう3年ぐらい前になるのか。
数十年来の恩師に誘われて、大阪ドームに行った。
久しぶりに球場に行ってみたら随分と様子が変わっていた。
なんだか、チアリーダーみたいなのとか、野球と全く関係のない出し物があってびっくりした。
野球そのものに関する印象は、相変わらずだ。
でも、今までより選手との距離が近かったせいだろうか。この人たちの、アスリートとしての身体能力はやっぱり凄いな、と素直に感心した。
翌日職場に出たら、同僚から「昨日はお楽しみやったね~!」とニヤニヤしながら言われた。
自分では全然気づいてなかったのだが、たまたまテレビに写っていたらしい。
私の左横は恩師だが、右横はそういえば女の子が座っていた。
勘違いしたらしい。
計3回。
これが、僕の野球観戦歴のすべて。
野球観戦の面白さが、まだわからない。
「まだ」としておこう。
何事も、いつ何がどう転ぶかわからない。
何かのきっかけで、大好きになるもわからない。
案外、10年後はここで野球について熱烈に語っているかもしれない?