俳句 「よ」の切れ字が使われている作品 〜明治・大正・昭和期〜
俳句にご興味のあるnoteのみなさまに、俳句の様々なことについてご紹介をしていく記事です。
『よ』の切れ字が使われている作品
〜明治・大正・昭和期〜
現在まで俳句で使われてきた切れ字は「や・かな・けり」をはじめとして数多いです。
今回はそれらのなかの「よ」の切れ字が使われている俳句に注目してまとめました。
明治期〜昭和初期の俳人の方々の作品になります。
現在まで、この切れ字は「や・かな・けり」の脇をかためるといった立ち場に置かれつづけてきた様子で、十分に使いこまれてきたとはいえない状況にあるようです。
うまく使いこなすことができれば、文語体の俳句、口語体の俳句、どちらで使う場合でも未だ可能性を秘めた切れ字の1つといえそうです。
※15人の俳人の方々の作品を記しました
※作品数をしぼるため事前に予選をしました
俳句作品
〜明治・大正・昭和初期〜
◇ 正岡子規 ◇
毎年よ彼岸の入りに寒いのは
下総の国の低さよ春の水
六月を綺麗な風の吹くことよ
はれよはれよ五月もすぎて何の雨
一口に足らぬ清水の尊さよ
ことづてよ須磨の浦わに昼寝すと
日のあたる石にさはればつめたさよ
南天をこぼさぬ霜の静かさよ
枯すすきここらよ昔不破の関
冬ごもる人の多さよ上根岸
◇ 高浜虚子 ◇
蝶々のもの食ふ音の静かさよ
鶯の声の大きく静かさよ
中堂よ大講堂よ山桜
風生と死の話して涼しさよ
墓参り先祖の墓の小ささよ
遠花火ちよぼちよぼとして涼しさよ
夜半すぎて障子の月の明るさよ
たてがみを振ひやまずよ大根馬
切干もあらば供へよ翁の忌
◇ 河東碧梧桐 ◇
初日さす朱雀通りの静かさよ
庵を出でて道の細さよ花薺
蟹とれば蝦も手に飛ぶ涼しさよ
砂の中に海鼠の氷る小ささよ
◇ 夏目漱石 ◇
名は桜ものの見事に散ることよ
花の寺黒き仏の尊さよ
加茂にわたす橋の多さよ春の風
うねうねと心安さよ春の水
二人して雛にかしづく楽しさよ
あるほどの菊投げ入れよ棺の中
引かで鳴る夜の鳴子の淋しさよ
生きて仰ぐ空の高さよ赤蜻蛉
酒なくて詩なくて月の静かさよ
◇ 飯田蛇笏 ◇
甲斐の夜の富士はるかさよ秋の月
なんばんに酒のうまさよ秋の風
残雪を噛んで草つむ山の子よ
人妻よ薄暮のあめに葱やとる
◇ 芥川龍之介 ◇
喇嘛寺のさびしさつげよ合歓の花
庭つちに皐月の蝿のしたしさよ
ゆれ落つる月の赤さよ槍が嶽
草の家に柿十一のゆたかさよ
◇ 渡辺水巴 ◇
妹よ二人の朝の初鴉
門掃かれてあるじ出でずよ夕桜
◇原石鼎◇
山風の蚊帳吹きあぐるあはれさよ
玉虫の羽とぢたたむかそけさよ
落ち毛虫いそぎ逃ぐるよ青嵐
風に起きる蓮の浮葉の大いさよ
山国のものものしさよ猪威
長崎の雲が見ゆるよ赤とんぼ
氷りたる大湖に人の小ささよ
垣越に見えて過ぐるよ雪の傘
すいすいと降る雪の中舞ふ雪よ
ふくろふの夕なきうつるはるけさよ
◇ 松本たかし ◇
チチポポと鼓打たうよ花月夜
初蝶に見し束の間のかなしさよ
温泉澄みて湯気も立たずよ梅二月
さらさらと肌につかずよ白絣
昼顔に認めし紅のさみしさよ
湯揉みせる唄よ湯音よ雪の暮
雪国の雪の止み間の淋しさよ
共に病み共に訪はずよ春を待つ
◇ 川端茅舎 ◇
とび下りて弾みやまずよ寒雀
鼠らもわが家の子よ小夜時雨
さらさらと落花つかずよ甃
瀬と淵とならびて磧涼しさよ
牡丹を垣間見賞めて行くことよ
野分跡暮れ行く富士の鋭さよ
◇ 西東三鬼 ◇
寒灯の一つ一つよ国敗れ
墓の雪つかみ啖いて若者よ
北国の地表のたうつ樹々の根よ
高原の枯樹を離れざる蝉よ
薬師寺の尻切れとかげ水飲むよ
青高原わが変身の裸馬逃げよ
万緑の上のゴンドラ昇天せよ
◇ 日野草城 ◇
踏む麦の夕焼けて来し寂しさよ
大岩の蔭のさむさよ春の山
手に貰ひ紅梅の枝のたのしさよ
風鈴の遠音きこゆる涼しさよ
くつろげし胸の白さよ蚊遣香
そよ風を受くる早苗のいとしさよ
酔ざめの水のうまさよちちろ虫
稲刈つて飛鳥の道のさびしさよ
ことりともいはぬ霜夜のしづけさよ
◇ 久保田万太郎 ◇
はつ空にうかべる雲のめでたさよ
蜆汁飽きずに雪の降ることよ
花冷えの燗あつうせよ熱うせよ
短夜の水にうく灯のそれぞれよ
落ちかたの月のいろみよ涼み船
梅雨あけし簾透く灯よ東京よ
つつましく扇つかへる涼しさよ
かたまりて咲きて桔梗の淋しさよ
浅草の秋はなやかにゆくをみよ
◇ 杉田久女 ◇
梨花の月浴みの窓をのぞくなよ
ミシン踏む足のかろさよ衣更
さみし身にピアノ鳴り出よ秋の暮
浅間曇れば小諸は雨よ蕎麦の花
朱唇ぬれて葡萄うまきかいとし子よ
許されてむく嬉しさよ柿一つ
退院の足袋の白さよ秋袷
大輪のかはきおそさよ菊莚
◇ 橋本多佳子 ◇
われとあり天を知らざるわが凧よ
羽子つよくはじきし音よ薄羽子板
藤盗む樹上少女の細脛よ
たんぽぽの花大いさよ蝦夷の夏
南風つよし綱ひけよ張れ三角帆
蝙蝠の飛びてみとりの燈も濃きよ
炎天の清々しさよ鉄線花
ただ黒き十字架朝焼雀らよ
秋の蝶吾過ぐるとき翅ゆるめよ
山の子が独楽をつくるよ冬は来る
いつも
ご覧いただき
ありがとうございます
作品は
こちらの文学サイトで読ませていただき
引用させていただきました
俳句 BIGLOBE 様
俳句
ありがとうございました
今回調べた作品
まとめ
◇正岡子規◇
毎年よ彼岸の入りに寒いのは
下総の国の低さよ春の水
六月を綺麗な風の吹くことよ
晴れよ晴れよ五月もすぎて何の雨
故郷へ入る夜は月よほととぎす
泥川を芹生ひ隠すうれしさよ
ことづてよ須磨の浦わに昼寝すと
一口に足らぬ清水の尊さよ
その鐘をわれに撞かせよ秋の暮
白菊の老いて赤らむわりなさよ
日のあたる石にさはればつめたさよ
南天をこぼさぬ霜の静かさよ
化物に似てをかしさよ古火桶
枯薄ここらよ昔不破の関
老僧の爪の長さよ冬籠
戸を閉ぢた家の多さよ冬の村
あちら向き古足袋さして居る妻よ
鴛鴦の羽に薄雪つもる静さよ
冬ごもる人の多さよ上根岸
◇高浜虚子◇
賽の目の仮の運命よ絵双六
中堂よ大講堂よ山桜
蝶々のもの食ふ音の静かさよ
鶯の声の大きく静かさよ
垣外の暮春の道の小ささよ
忘られし金魚の命淋しさよ
宗鑑の墓に花無き涼しさよ
神垣に枇杷の生りたるをかしさよ
大寺の柱の下の涼しさよ
島々に名札立ちたる涼しさよ
俳諧を守りの神の涼しさよ
風生と死の話して涼しさよ
一つ引けば田の面の鳴子なるを見よ
秋草の名もなきをわが墓に植ゑよ
墓参り先祖の墓の小ささよ
峻峰のいただきに月の小ささよ
遠花火ちよぼちよぼとして涼しさよ
秋の蠅うてば減りたる淋しさよ
ごみすてて汚なからずよ赤のまま
山里の盆の月夜の明るさよ
夜半すぎて障子の月の明るさよ
一枚の紅葉且つ散る静かさよ
酒うすしせめては燗を熱うせよ
鬣を振ひやまずよ大根馬
凍蝶の翅におく霜の重たさよ
切干もあらば供へよ翁の忌
手で顔を撫づれば鼻の冷たさよ
よき炭のよき灰になるあはれさよ
里神楽柿くひながら見る人よ
◇河東碧梧桐◇
初日さす朱雀通りの静さよ
庵を出でて道の細さよ花薺
根ツ子焼く烟絶えずよ春の霜
蟹とれば蝦も手に飛ぶ涼しさよ
砂の中に海鼠の氷る小ささよ
中庭の棕梠竹よ火鉢の用意
◇夏目漱石◇
あるほどの菊投げ入れよ棺の中
花の寺黒き仏の尊さよ
酒なくて詩なくて月の静かさよ
名は桜ものの見事に散ることよ
うねうねと心安さよ春の水
加茂にわたす橋の多さよ春の風
二人して雛にかしづく楽しさよ
人形も馬もうごかぬ長閑さよ
髪に真珠肌あらはなる涼しさよ
引かで鳴る夜の鳴子の淋しさよ
生き返るわれ嬉しさよ菊の秋
生きて仰ぐ空の高さよ赤蜻蛉
◇飯田蛇笏◇
人妻よ薄暮のあめに葱やとる
甲斐の夜の富士はるかさよ秋の月
なんばんに酒のうまさよ秋の風
残雪を噛んで草つむ山の子よ
◇芥川龍之介◇
七宝の柱に暮れよ合歓の花
喇嘛寺のさびしさつげよ合歓の花
庭つちに皐月の蠅のしたしさよ
水墨の秋三竿の竹に見よ
ゆれ落つる月の赤さよ槍が嶽
草の家に柿十一のゆたかさよ
◇渡辺水巴◇
妹よ二人の朝の初鴉
門掃かれてあるじ出でずよ夕桜
◇原石鼎◇
山風の蚊帳吹きあぐるあはれさよ
緋目高のつづいてゐるよ蓮の茎
苗床の二葉につくよ粉糠蟻
風に起きる蓮の浮葉の大いさよ
いちさきの初筍の小ささよ
玉虫の羽とぢたたむかそけさよ
花氷花に埋れて溶け入るよ
親に随いて飛ぶ子鴉よ山若葉
滴りの凝つては落つる白さ見よ
落ち毛虫いそぎ逃ぐるよ青嵐
山国のものものしさよ猪威
長崎の雲が見ゆるよ赤とんぼ
酸漿に滴たるたよ秋時雨
氷りたる大湖に人の小ささよ
垣越に見えて過ぐるよ雪の傘
白玉の花の蕊見よ水仙花
ふくろふの夕なきうつるはるけさよ
拝める人尊さよ枯木宮
いちさきに孟宗ゆれて降る雪よ
すいすいと降る雪の中舞ふ雪よ
◇松本たかし◇
初蝶に見し束の間のかなしさよ
チチポポと鼓打たうよ花月夜
温泉澄みて湯気も立たずよ梅二月
春潮の底とどろきの淋しさよ
下闇に遊べる蝶の久しさよ
昼顔に認めし紅のさみしさよ
緑蔭の深きに憩ふ久しさよ
三河女と早苗取らうよ業平忌
さらさらと肌につかずよ白絣
渋柿の滅法生りし愚さよ
温泉煙の朝の白さよ秋燕
舟蟲が来て露草の気高さよ
共に病み共に訪はずよ春を待つ
雪国の雪の止み間の淋しさよ
雪嶺の歯向ふ天のやさしさよ
湯揉みせる唄よ湯音よ雪の暮
◇川端茅舎◇
さらさらと落花つかずよ甃
魚貫して囀り飛ぶよ杉の雨
朱ヶの月出て夏草の鋭さよ
都府楼趾菜殻焼く灰の降ることよ
瀬と淵とならびて磧涼しさよ
牡丹を垣間見賞めて行くことよ
野分跡暮れ行く富士の鋭さよ
鼠らもわが家の子よ小夜時雨
塔の森落葉煙の出し今朝よ
とび下りて弾みやまずよ寒雀
◇西東三鬼◇
北国の地表のたうつ樹々の根よ
秒針の強さよ凍る沼の岸
墓の雪つかみ啖いて若者よ
仏見る間梅雨の野良犬そこに待てよ
高原の枯樹を離れざる蝉よ
老残の藁塚いそぐ陽炎よ
青高原わが変身の裸馬逃げよ
薬師寺の尻切れとかげ水飲むよ
万緑の上のゴンドラ昇天せよ
寒灯の一つ一つよ国敗れ
◇日野草城◇
踏む麦の夕焼けて来し寂しさよ
大岩の蔭のさむさよ春の山
手に貰ひ紅梅の枝のたのしさよ
濡れそぼつ松の幽さよ五月雨
風鈴の遠音きこゆる涼しさよ
行水の妻も暮れゐる涼しさよ
くつろげし胸の白さよ蚊遣香
そよ風を受くる早苗のいとしさよ
酔ざめの水のうまさよちちろ虫
稲刈つて飛鳥の道のさびしさよ
着膨れて霜草に下駄小き子よ
ことりともいはぬ霜夜のしづけさよ
◇久保田万太郎◇
初髪のふせてなまめく目もとみよ
はつ空にうかべる雲のめでたさよ
蜆汁飽きずに雪の降ることよ
花冷えの燗あつうせよ熱うせよ
水中花咲かせしまひし淋しさよ
短夜の水にうく灯のそれぞれよ
與右衛門の足の細さよ立版古
またとでぬ役者なりとよ夏の月
落ちかたの月のいろみよ涼み船
梅雨あけし簾透く灯よ東京よ
つつましく扇つかへる涼しさよ
おもふさま散らかりし灯の涼しさよ
かたまりて咲きて桔梗の淋しさよ
いなづまのやうやくよわく淋しさよ
蟷螂の斧ふりあげし哀しさよ
浅草の秋はなやかにゆくをみよ
気やすめの薬ばかりよ冬ごもり
◇杉田久女◇
梨花の月浴みの窓をのぞくなよ
ミシン踏む足のかろさよ衣更
さみし身にピアノ鳴り出よ秋の暮
浅間曇れば小諸は雨よ蕎麦の花
青ふくべ地をするばかり大いさよ
我に逆ふ看護婦憎し栗捨てよ
朱唇ぬれて葡萄うまきかいとし子よ
許されてむく嬉しさよ柿一つ
退院の足袋の白さよ秋袷
病み痩せて帯の重さよ秋袷
大輪のかはきおそさよ菊莚
◇橋本多佳子◇
われとあり天を知らざるわが凧よ
白破魔矢武に苦しみし神達よ
羽子つよくはじきし音よ薄羽子板
渦潮見る断崖上のわが背丈よ
藤盗む樹上少女の細脛よ
燦と燭良雄忌はまた主税忌よ
たんぽぽの花大いさよ蝦夷の夏
南風つよし綱ひけよ張れ三角帆
蝙蝠の飛びてみとりの燈も濃きよ
炎天の清々しさよ鉄線花
ただ黒き十字架朝焼雀らよ
友鵜舟離るればまた孤つ火よ
金銀を封ぜし如き梅壺よ
ゆきあひて眼も合さずよ野分蝶
暮れて鳴く百舌鳥よ汝は何告げたき
秋の蝶吾過ぐるとき翅ゆるめよ
高まりつつ野分濤来るはや砕けよ
山の子が独楽をつくるよ冬は来る
土間は佳し凍雪道の長かりしよ
裾の寒さよ万燈下の暗さよ