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『白藤の花房のクジ』

「 幸運のクジのごと揺れ藤の花  爽子 」

月の光る夜の空からたくさんの長い白藤の花房が垂れて誘っている。
そのひんやりとした美しさについ手を伸ばし、花に触れてみる。すると花房がわたしに言う。
さあ、選んで。選んだらそっとにぎってそっと引いて。
引くとどうなるの?花がちぎれてしまうでしょう?いくらそっとでも。こんなにきれいに咲いているのにそんなことできない。
わたしがそういって首を振ると白藤はかすかに揺れて笑う。ちぎれたりしないわよ。ひとつだけ、当たりがあるの。
当たり?
そう、当たり。当たりを引くとね、そのままこの花の付け根まで、空まで、そのまま引っぱられてのぼっていけるの。ぐんぐんぐんぐん。素敵でしょ?
それは素敵だな。
わたしは想像してみる。白い花の房に引かれて月夜の空をのぼっていくわたし。
でも。でも当たりは一つだけなのだ。こんな何百何千もある花房の中に、一つだけ。わたしはそれを引き当てられるほど幸運な強運な人じゃない。
さあ早く選びなさいよ。と白藤はわたしを急かず。
外れたっていいじゃない。外れたからってなんなのよ。選ばなければ当たることもないのよ。なぜ引いてみようとしないの?
わたしは白藤に何か別の話をされているような気持ちになってくる。
なぜ、幸運が当たるかもしれないクジを引いてみないの?引かないと何も変わらない今のまま…
わたしは藤の匂いとかすかな揺れに酔ったようになりながら、ふらふらと藤を見上げて歩きまわる。どれも「わたしを引いて」とささやく。わたしをからかっているのだろうか。みんなくすくす笑っている。
わかった、これだ、これを引こう。
わたしはまだ咲ききっていない花房をそっと選んで手の中につつみ、そおっと引いてみる。
はずれ。
どこかから声がして白藤たちはいっせいに笑い出す。わたしも可笑しくなって笑い出す。ああ、なんて可笑しいのだろう。
また明日も挑戦してみてね。
藤たちの笑いさざめく声に手を振ってわたしは家に帰る。
手のひらにはかすかに月のような白藤の匂いが残っている。
それをそっとにぎって歩く。外れたけれど、今夜は素敵なクジを引いてみた、そんな日だった。
でもあれ?あの公園にあんな長い白藤の棚なんてあったかな?
あんな触れられるほど長い房の白藤なんて…
心のどこかで「なかったよ」と声がする。
でもまあいいや、とわたしは手のひらをひらく。にぎっていた小さな白い蝶が逃げてしまうように、残っていた花の香りが月の空へと飛んで行った。

(了)

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