俳句「兎も波を走る」
鯖雲のうへに遊べり波兎
十五夜の翌日の夜空は鯖雲に覆われていた。その鯖雲の隙間から十六夜の月の光が漏れる。それは昼間の鯖雲が描く雲の海とはちがう美しさだった。
「波兎」は、月影が水面に映っている様子を喩えたものとされ、謡曲『竹生島』の「緑樹影沈んで魚木に登る気色あり。月海上に浮かんでは兎も波を奔るか」の一節に由来するとされる。
ふと今夜の月の光はこの鯖雲を上から照らしているのだなと思い、波兎が雲の上を走っているのを想像した。走っているというより、飛び石を跳ぶように、雲の上をぴょんぴょんと跳ねているイメージだ。
上から見た雲の海もさぞかし美しかったことだろう。