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【八〇〇字物語】畑のなかの卵頭
こんな夢を見た。
薄墨色の作業服を着て、なだらかな坂道の前に立っている。
コンクリートで舗装された坂道の両側には、背丈よりも高い雑草が生い茂り、ざざざざと葉の擦れ合う音が大きく響いていた。初夏の気配が充満していて、まわりの景色は見えないけれど小さな山の中腹であるような気がした。
この坂を下った先にある土地がほんの少し平坦に開けていて、そこにわたしの畑がある。これから畑に向かうところらしかった。
坂道を下って畑に到着する。
大股で歩けば三十歩も行かずに向こうにつきそうな狭い土地である。
畑のまわりも深い藪になっており、その猫の額とも呼べないほど小作りな畑に六つの小さな畝が並んでいた。
今は何も植わっていないらしく、きれいに整えられた健康的な濃茶の土だけが、こんもりとかわいらしく盛り上がっていた。
その小さな畑の上で、ウズラのヒナのような小さな鳥が数羽動いているのが見えた。ミミズを探しているのか、地面を足で蹴ったり、ついばんだりしている。
わたしが育てているのであれば、放し飼いはしないだろうから野生の鳥だろう。
どこから来た子たちだろうと思いつつ、その愛くるしい様子を眺めていると、どうも頭の部分がおかしいことに気がついた。
よく見れば、身体の部分は普通のヒナだが、頭部が卵の形をしているのである。
朝陽を受け、オレンジ色に輝くその卵頭の中に、孵る直前のヒナの姿が浮かんでいる。脈々と波打つ赤の中で、静かな黒い瞳が、じっとこちらを見つめていた。
とつぜん、向こう側の藪をかき分けて、薄灰色の作業服を着た男性らしき人物があらわれた。その男性の頭部もヒナたちとおなじようになっていて、朝陽に透かされた頭の卵のなかに、孵る直前のヒナがぎゅっとうずくまっているのが見えた。
男性は鍬を片手に、一番奥にある畝をせっせと耕しはじめた。
みんなの頭部が割れなければいいな、と思いつつ、卵頭に占領されたわたしの畑をぼんやりと眺めていた。