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【八〇〇字物語】叔父さん
最近、十歳の少年と知り合った。
今、わたしが書いている児童小説の主人公である。その彼から、このところ連日苦情が届いている。どうやら、彼の自宅をオープン設計なデザイナーズマンションにしてしまったせいで、秘密や謎に飢えているらしい。
わたしのせいなのでどうにかしろ、と言ってきた。
たしかに両親ともにミニマリストの設定にしたのもわたしだ。
そのせいで彼の家には極端に物が少ない。
きれいに整理整頓された薄白色のクローゼット。しゃれた表紙の書物が五十音順にならぶ、なめらかな木材で作られた本棚。下に潜り込むことすらできない床置きのベッド。
キレイだけれど小学生には面白味のない家になってしまったか。
自分の憧れを登場人物に押しつけてしまった引け目もあって、急きょ、彼の父親には片づけが出来ない兄がいる、ということにしてみた。
基本的に自由に動いてほしいので独身が好ましい。
民俗学か歴史学かの研究をしていて、主な仕事はゴーストライター。秘密の部族が使う特別な呪具を持っている。
普段はピーナッツバターを塗った食パンばかりを食べていて(食パンがない時はピーナッツバターだけ舐めている)、冷蔵庫はない。
長い黒髪にヘアバンド。
もらい物のおかしな洋服ばかり着ていて、積み上げられた書籍や紙切れに埋もれて暮らしている。インダス文字の解読に挑戦中で、自宅は都会の路地裏にある古ビルの七階。非常階段が壊れているので、途中から隣のビルに飛ぶ必要がある。
そこまで考えて彼に提案してみると、面白いと飛び上がって喜んでくれた。
なるほど。
この叔父さんと一緒に冒険させたり、危険な目にあわせたりするのも面白そうだ、なんてことは伝えずに、叔父さんの住所が書かれた紙を渡す。
彼の住む町に新しく創られた未開の地。
ふたりの出会いがどうなるか、わたしも今から楽しみでしょうがない。
さて。
彼が叔父さんに会いに行くまでに、急いで『叔父さん』の細部を作りこまなければ。