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【八〇〇字物語】求肥くらげとゲームショウ
ゲームショウに来ていた。
あたりは群衆と呼んでいいほどの人だかりだが、不思議と圧迫感がない。それも道理で、よく見ればみんな人の形はしているものの、くらげのように透き通っていて、浮遊するように動いている。身体が触れても何の手ごたえもない。
人間のかたまりは不得手だけれど、これならば居ないのと同じだ。
色とりどりの透き通ったくらげ人間が建物のなかに消えていく。ひそみにならってあとに続いた。
巨大なドーム状の建物の中は細かいブースにわかれていて、どのブースのゲームも無料で体験できるという。
普段は手を出さないようなゲームにも果敢に挑戦して楽しんでいると、来春発売される予定の新作のブースが空いているらしいとターコイズ色のくらげ人間が教えてくれた。
どんな内容のものかも知らないままに、いそいそとブースに向かった。
ほどなく目指すブースに到着する。
となりのブースがひときわ賑わっていて、くらげ人間たちがふにゅふにゅと押し合い圧し合いしているのが見えた。
どうやら有名なゲーム実況者の何某かが来ているらしい。
どのようなゲームか気になって背伸びをしてブースの中をのぞき込んで見たけれど、ブース内は紫の煙が膜のように張っていて、様子をうかがうことが出来ない。そうなると、そちらのゲームも気になる。下手糞なくせに挑んでみたくなる。
もわと煙る紫膜に向かって並んでいると、前方のくらげたちがたふ、たふ、とくずおれていくのが見えた。
どうやら紫の煙は演出ではなく毒ガスらしい。
ゲームは好きだが命をかけるほどではないので、普通に諦めた。
わたしが列を抜けたあとも、くらげたちの列は延々続いている。
そうして、たふ、たふ、と虹色に混ざりあって積みあがっていく。
高いところから落とした求肥餅が重なるような音だけが響く。誰もブースに入れない。
その気配を感じながら、わたしはもう別のブースにいて、画面の中のバナナを房に戻していくゲームに挑んでいた。