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【八〇〇字物語】主翼を走る夢のはなし

こんな夢を見た。
広大な飛行場に、飛行機が主翼を揃えて十機並んでいる。わたしは友人とともに端に停まっている一機の搭乗橋にいた。
どうやらわたしたちが乗らなければならないのは反対側の端にある一機らしい。搭乗口をまわり込んでいては間に合わないので主翼を渡って向かってくださいと添乗員に言われ、主翼に乗せられた。

そんな馬鹿なと思う間もなく、景色は上空に変わる。
文句なしの青天の中、飛行機は主翼を揃えたまま並んで飛んでいる。わたしたちが移動するまで航路が変えられないのだろう。他人に迷惑をかけているという現実が恐怖を凌駕した。意を決して友人とともに主翼を走る。無重力のようにふわふわして、うまいこと力の具合が定まらない。主翼から主翼に飛び移る時、下界との間にセスナが見えた。万一、落ちてもあれで救助されると判って俄然楽しくなってきた。

わたしたちが去った飛行機が次々と放射線状に飛び去っていく。その美しさに見惚れたか、残り三機というところで友人が滑落した。仕方がないので、わたしも一緒に滑落した。
落ちながら体勢を変えて上空を見る。眼前を飛行機の腹が通り過ぎていった。

予想通り、セスナに拾われたが、ここでもわたしたちの居場所は主翼の上である。左右に別れて羽につかまり、風を顔面に浴びながら笑うしかない。

大海原の先に島影が見えてきた。あれがわたしたちの目指す島だ。
しかし、セスナは島には上陸しないので、どこかで飛び降りなければならない。徐々に高度を下げる機体に海面が美しく反射する。目を凝らせば海中の魚さえ見える位置を音もなくセスナが飛び、後ろの海面に白く細い糸を引いた。

盛大な水音がして、見れば友人の姿が消えていた。もう少しで砂浜なのに、と可笑しくなった。
砂浜が見えたところで羽からゆっくり手を放す。ほんの少し足に水がかかる気配がして、わたしは無事に島に上陸した。
ずぶ濡れであがってくる友人を哄笑しながら待っていた。

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