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【八〇〇字物語】肉塊オブジェ
こんな夢を見た。
米国人の男がひとり殺された。
現場近くの壁にはBarn(納屋)だかBurn(燃やす、燃える)だかの文字が被害者の血で書かれていて、銃殺されていたとのこと。
私は刑事でも警察関係者でもないのに、なぜだか現場に連れまわされている。
某探偵や某コンサルタントのように意見を求められるわけでもない。むしろ口をきくと叱られさえする。それなのに、死体を指し示され、英語で「見ろ」と命令される。
わけもわからず、知らない男の死体を見る。青地のチェック柄のシャツが、ところどころ焦げたように黒い。穴が開いているのかは判らない。銃殺されたときいたので、そのように見えるだけかもしれない。次の命令が来ないので、その黒点をじっと見ていると、私を無視して捜査会議がはじまってしまった。
と思ったら、いつの間にか現場から警察署に移動していた。署内は、死体があった場所より濃密に殺気立っていた。会議は粛々と進んで行く。
どうやら、容疑者と思われる男の見当はついているらしかった。が、そこへその男が知人の女と一緒に殺されているという知らせが飛び込んできた。
なんと忙しない。
あわてて死体発見現場に移動するが、そこには抱きついても両手がまわりそうにないくらいに大きな黄色の卵形オブジェがあるだけで、血だまりどころか事件がおきた気配さえなかった。
それなのに、みな一様に顔をしかめている。
若い刑事が口をおさえて逃げるように室外に移動した。
不思議に思っていると、刑事のひとりが吐き捨てるように教えてくれた。
このオブジェは二人分の肉塊で作られていて、なぜか黄色い染料で染められているのだ、と。
そんな馬鹿な。触ってみたが、表面はつるつるしていて臭いもない。
これが人間の死体?
「流行っているんだ、死体で卵型のオブジェを作るのが」
そんな流行があるのか。なるほど、世界は広い。また捜査会議がはじまる。
刑事でもない私には、口出しをする権利もない。