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【八〇〇字物語】スパークリング・バスタイム
炭酸水が好きだという話をしたら、水道局に行って手続きをすれば、水道水を炭酸水に変えてくれるよ、と誰かが教えてくれた。
さっそく水道局に問い合わせてみると、たしかにできますという。費用も今の基本料金に月額百五十円追加するだけというので、さっそく手続きしてみた。
家に帰り、わくわくしながら蛇口をひねる。
しばらく普通の水が出た後、じゅわわわと明らかに音が変わって炭酸水が出始めた。結婚式の引き出物で頂戴した上等なグラスに注いでみる。細かい泡の粒がしょわしょわと軽やかな音を立てながら、波と揺れていた。
しばらく眺めてみても、コップの中の泡は消えない。ひとくち飲んでみる。しかしかと強めの炭酸が口の中で刺すようにはじけた。まごうことなき炭酸水だった。
こんなに美味しい炭酸水が自宅で飲めるとは思わなかった。
重たいペットボトルを必死の思いで二階に運びあげていたあの日々はなんだったのか。もっと早くに知りたかった。
なにより炭酸水で入るお風呂の気持ち良いこと!
設定温度は変えていないのに、全身を包む泡のおかげか、いつものお湯より温かい気がする。肩まで浸かったところで、用意していた、これまたちょっとお高めのバスボムを入れてみた。
ぷくぷくぷくと耳心地よい音をたてながら、バスボムが炭酸水に溶けていく。
空色の渦と透明な泡が合戦しながら混ざりあっていく。みるみるうちに、両方のあぶくが合わさって大きな空気玉になっていった。水中から、ばぼんばぼん、ばぼんばぼん、と聞いたことのない音がする。
はっとひらめいて、風呂から上がる。
濡れそぼった素裸のまま、買ったばかりの雑誌と冷蔵庫からネクターを持ってくると、ふたたび湯に浸かり、勢いよく空気で満ちたお湯の中にもぐってみた。案の定、お湯の中は空気で満ちていた。
浴槽の底面にうつ伏せになって、キンキンに冷えたネクターを飲みながら、最新刊の雑誌を読む。
最高過ぎて、つい長風呂してしまった。