イケメンは空気に住む話

初めて違和感を覚えたのは、知り合いに写真を見せられた時でした。

「私の旦那、イケメンで有名なんだよ?」

私に分かったのは男性が写っているということ。二十代か三十代だろう、ということだけでした。

顔に出たのだと思います。

「これは最近ので、若い時のじゃないからなあ」

私は察しが悪くて、それ以降も、何度か同じ真似をしでかしました。

旦那さんがいる女性に「顔はある程度選ばないと」と言われ、「うちのもあれでイケメンの部類だからね!」と説明を受ける。

「うちの息子イケメンなんだって!」と写真を見せられ、「これ写りが悪いからなあ」とフォローされる。

そのあたりでようやく気がつきました。

「素敵ですね! さすがだなあ」

と同調すれば、相手に気遣わせることなく話が終わるのだと。

当然、反省とともに疑問が湧きます。

イケメンとはなんなのだろう。

定義づけが難しいのですが、世間が言う「イケメン」は造作のいい男性を指すのではないでしょうか。もしくは魅力的な男性。

私に写真を見せてくれた方たちは、身内のことを話したわけですから、遠回しに馬鹿にしたとは考えづらい。ということは、本気で相手をイケメンだと捉えているわけです。

身内をイケメンだと感じるのならそれはとても素敵なこと。

では、その感覚を共有できない私には、なにが足りないのだろう。

男性の造作の美しさを理解出来ないのだろうか、と思ったのですが、私だって生田斗真さんのような男性を見れば一目で「きれいなお顔立ち」だと分かる。

では写真という動かない媒体だったから、魅力が感じ取れなかったのか。

けれど、美術館の肖像画を見て、「柔らかい語り口でお話しをされそうな、優しい品のあるお顔だな」と感じ入ることがある。つまり静止画だって、魅力は魅力として感じ取れるわけです。

ここまで考えた正直な感想は「厄介だなあ」でした。

要するに、芸能人といった飛び抜けて美しい人でない限り、イケメンは各々の好みの中にあり、他人と共有はできるものではない、ということではないですか。

そうなると「私の家族(もしくは彼氏)はイケメンでね」とほのめかされたら、空気を読んで「えー素敵!」と答えねばならない。空気の中に存在するイケメン、略してエアメン。(空は飛ばない。)

そもそも容姿を褒めるというのは危険な行為で、異性の容姿を褒めれば性的な不快を与える可能性が高いし、同性を褒めれば「内心ではどう思ってんだか、返答めんどくさ」と思われやすい。いずれは衰えるものにしがみつく浅ましい人間とも捉えられかねない。

それでも相手に「褒めて欲しい」オーラを感じたら褒めねばならない。それが日本のコミュニケーションにおける潤滑油。自由選択で選べる相手ならば喜んで切らして縁まで切るけれど、接客などにおいては切らしてはいけない厄介な油です。

こんな時、平面ならな、と思います。

皆さんは乙女ゲームというジャンルをご存じでしょうか。

内容は様々でしょうが、大づかみで言うと、ゲームの中の男性と絆を育み恋愛をするゲームです。

相手は98%の確率でイケメン。

そう、イケメンなんです。

なぜ平面ならばイケメンと分かるのかといえば、様式が存在するからでしょう。

身長があり、太り過ぎていないシュッと伸びた体型で、全体のバランスを崩す目立った特徴を有していない男性。

日本の漫画、アニメ、ゲームといった作品の中で、この様式に沿った男性が出てくると、わざわざ「イケメン●●」と銘打たずとも「どうやらイケメンらしい」と認識できる。

言ってしまえば、様式化できるほど、キャラクターの絵から読み取れる情報が少ない。

私たちは人と接する時、姿勢、視線の動き、匂い、服装、清潔感、言葉の間合いや移り変わる態度から膨大な情報を得て、自分なりに相手を解釈する。どこに重点を置くかは人それぞれで、重点部分にポイントが多い男性をイケメンだと解釈するのだとしたら、やっぱりイケメンなんて人それぞれじゃねえかよおおおおおもおおおおおお無理いいいいいいいい!!!!!!

もう頼むから私に「うちの誰それイケメンでね」って言わないで!!! 言わないで!!!! 分からないから!!!! それあなたの中のイケメンだから!!! 万人が理解できるイケメンはテレビの中かゲームの中にしかいないから!!!!!

正直に言ってしまいたい。

「私の脳ではイケメンと解析できませんでした」

親しい相手になら言える。けれど言えない相手だからこそ、そういう話をふっかけてくる。

なんなのでしょうかこれは。空気の中に存在するイケメンを見つけ次第褒めねば得点がもらえないゲームなんでしょうか。得点を集めればレアカードが引けるんでしょうか。

エアメンの気配に鍛え上げた笑顔を浮かべながら、今後も接客業に精進する所存です。

――――――ハアッ……。

いいなと思ったら応援しよう!