映画「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」を観た

痛みの受容、やさしさとは何か、他人に関心を向けることについて、などについて悩み続ける登場人物たちの言葉一つ一つがわたしの全身に突き刺さり、今ウニみたいな感じになってます…。

他人と関わったり心のうちを話したりすることはとても怖い。
自分が発した言葉で、あるいは存在しているだけで誰かを傷つけるかもしれない。
他人を傷つけたくは無いし、やさしい存在でありたいけど、やさしさのつもりで差し向けた言葉が相手を抉ってしまう事すらありうるから……本当に怖い。

とにかく他人との関わりは恐怖で満ちている。だけどそういう時にこそ、否定も肯定もせず、すっと寄り添ってくれるぬいぐるみに救われるのかもしれないな。

七森とむぎとちゃんの、心の深いところを優しく触り合うような会話がとても沁みる。
2人とも繊細で傷つきやすくて、傷つけること・傷つけられることを極度に恐れている。それでもお互いを知りたくて一歩踏み出す姿が本当に尊く、かけがえのない関係性だなと思いました。

この2人よりも「傷つくのが当たり前の世界」に適応しているであろう、白城の視点でこの映画は終わる。その流れが何だかとってもありがたい。
観客の心を深く沈み込ませたままにせずに、ちゃんと現実寄りの視点に戻してくれる。
(カメラがだんだん後ろに引いていって最終的に空に向かってパンする演出のような清涼感があった)

あと、あらゆる部分で観客をひとりぼっちにしない配慮に満ちていて、この映画自体がふわふわのぬいぐるみみたいだな〜と思った。
他人の痛みを見ないふりする不干渉のやさしさを肯定した後に「でもそれって本当に正しいのかな?その〝やさしさ〟って無関心と同じじゃない?」という問い直しパートが即座に入ったりする。ある一つの視点だけで話を進めないで、観客と一緒にいろんな角度から「やさしさ」を考えてくれる映画だった。

私もなりたいな、ぬいぐるみに。
ふわふわで誰のことも傷つけなくて、誰かの痛みに無言で寄り添えて……そのような存在になりたいものだ。
でも私たちって残念ながら人間なんだよな………体は硬いし、物を考える脳みそもあるし、口を開けば余計なことを言ったりするし。
生身の人間にはおよそできないことをぬいぐるみは引き受けてくれる。だから私たちはぬいぐるみを愛してるのかもしれない。「縫い」「包み」って名前からしてもう彼らのおおらかさ、やさしさが表現されている気がしますね。


いや、とーーーーーっても良い映画でした…。
私の2023ベスト映画に間違いなく入りますね(そんなに沢山見れてるわけじゃないが)

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