食べ物語・飲み物語 「ちょっといい何か」を味わうあそびの法則

 あそびの始まり
 物語に出てくる食べ物・飲み物がなんだか魅力的に見える人は多いと思います。私もその一人です。物語の食べ物を再現、と言うほどのこともない、ちょっとした「あそび」なんです。主人公がレモネードが特別好きなら、なんだか自分も飲みたくなるし、あの主人公がすきな味…と考えながら飲むと、市販のふつうのレモネードがなんだか特別なものに変化して、楽しくなってくるのです。ずっと前に「お菓子の箱に書いてある宣伝文句(どんな特別な材料や製法で美味しくなるのかを説明したようなもの)を読みながら食べるのが好き」という友人の言葉を、それはいいな!と思ったのですが、この感覚と似たようなものかもしれません。私と物語の食べ物・飲み物との付き合いは、特別なきっかけもなく「何かちょっといいもの」を味わいたい好奇心に押されて、いつの間にか始まっていたのでした。
 そうしていつの間にやら始まったあそびですが、本を読むのが好きなことや、ヴィクトリア時代を中心に歴史に興味があることも手伝って、食べ物と飲み物を通して物語の世界に近づく行為が楽しくなったように思います。やってるうちに、ヴィクトリアンになった気分に浸るのに食べ物・飲み物はいちばん手っ取り早い、とっつきやすい方法ということにも気が付きました。現代の自分のお家にいながら五感で異なる世界や時代を体験できるなんて、考えてみたら素晴らしいことでは!

 物語の食べ物・飲み物 あそびの法則
 特別なルールはありません。しいて言えば好奇心にしたがって、興味のむいたものをやりやすい方法で準備する。手作りしなければ意味がないなんてことはないし、あまりに工程が複雑なものはちょっと手が伸びない…でもそれでいいのです。覚えてる範囲でいちばん簡素だったのは、林芙美子の『放浪記』に登場する、東京に会いにやって来た母親にお茶すら出せず梅干しの種を湯呑にいれてお湯を注ぐというものでした。熱々過ぎるお湯が少し冷めるころにはほんのり滋味深いようなお茶(?)が出来上がっている、それは最も手間いらずな「本に出てくる飲み物」でした。とにかく必要なのは、心が躍る物語と、興味をそそる食べ物・飲み物が登場するシーンを見つけること!

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