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Bibliomaniac イギリス中の独立書店をめぐって横断・縦断を繰り返しながら振り返る本への愛と本爆買いの日々


https://www.waterstones.com/book/bibliomaniac/robin-ince/9781838957698


ロビン・インス著、発行日:2022年10月6日、ページ数:320、ジャンル:文学的紀行文、読書エッセイ、対象年齢:中高生以上

あらすじ
2021年の秋、コメディアン、俳優、作家のロビン・インスが物理学者(で元ポップロックバンドDリームのキーボードプレーヤー)のブライアン・コックスと行う予定だったトークツアーがパンデミックにより中止された。そこで何もしないよりはいっそ自著のサインイベントで独立系書店を100件回ってやろうと決め、当時の最新著書だったImportance of Being Interestedのサインイベントを行って毎回東西南北を渡り歩く11回のツアーを敢行。文学、哲学、歴史、物理や宇宙、音楽、SFなどさまざまな分野に興味を持つ読書狂でもあるインスは、100件を超える独立系書店をめぐりながら、その周辺の古本屋やチャリティーショップにも立ち寄ってはお宝本を探し出し、「これはチャリティーショップの途上国の井戸掘りに投資するためだから……!」と考えながら腰痛を起こすほど大量の本を購入したり迷った末に買わずに後悔したり、イベントで90歳を超える老人に「来たくなかったけど行こうって連れてかれて仕方なく来た、楽しかった」と一方的に言われた上、こちらの反応も待たずにぷいっと去られた、などといった珍道中を語る。

感想
最初のイントロダクションからあまりにも本を買い過ぎため込み過ぎたために6千冊余りを処分することにして、そのうち千冊は刑務所に寄付したという話を披露しているんですが、そこに著者ロビン・インスは脚注を付けて「この本を読んでいる裁判官様:どうぞ私に慈悲をかけて、私が予め蔵書を送っておいた刑務所に私を収監してください」と未来の(たぶんありそうにない)犯罪と実刑判決に備えて裁判官あてにメッセージを書いたりしています。さすがコメディアンらしく初めから終わりまで声に出して笑いまくる楽しいエッセイです。
一方、正式な診断ではないものの心理学者との面談を通しておそらく9割の確率でADHDであると言われたインスは、トークの間で30くらい披露したネタのうち10は結末を言わないまま終わってしまったと観客に言われたり、イベントツアーで見知らぬ街に一人で滞在することを繰り返す精神的疲労で不安を抱えるなど、メンタルの問題もオープンに語っています。上手くできないことや、不安で落ち込み、大丈夫ではない自分を見せるところが今の時代のコメディアンだなという感じがします。インスはジェンダーやセクシャルマイノリティについても関心が高く、今や教職員のための特別アーカイブにしか所蔵されていないLGBT教育漫画本も持っていて、私が参加したBibliomaniacのサインイベントでは一番お気に入りの4コマを読み上げながら見せてくれました。
Bibliomaniacで綴られているツアーでは、各書店でお勧めの本をもらって書店員や各地の友人知人、観客として訪れた地元の人々と熱い談義を楽しみ(ドストエフスキーのガチ研究者であるカンタベリー大主教にうっかり失言してしまわないためにはどうするべきかetc…)、観客から「救われたと感じる本」をもらい、それをまたいつか必要な人に必要なタイミングで渡そうと考えるなど、読書とトークツアーを通して温かい交流もあり、読み終わるまでの間毎日またページを開くのが楽しみでした。この本を翻訳して、本を読む喜びとその気持ちを日々だれかとシェアする喜びを日本語読者にも伝えたいものです。

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