心の底
心の底
午後4時を過ぎる頃から、少し太陽光線の力が緩むような気がした。
冷房の効いたプリンスホテルのロビーを出て、ヒルトンホテルビレッジのラグーンの木陰に敷物を敷いて、椰子の木を背もたれに座り込んだ。
そして、東側にある、ダイヤモンドヘッドを見つめ続けた。
27歳の時、アメリカ人の夫と初めて来たホノルル。 当然のように車を借りた夫は私を乗せて、主なホノルルの観光地を回った。
ダイヤモンドヘッドへも、当時は若かったこともあり、 徒歩で楽々頂上まで登った。
その時、ダイヤモンドヘッドが軍の要塞であったことも知った。
あれから、半世紀以上が過ぎてしまい、独り身ではあるが、 心は運良くいたって平穏である事に改めて気づいた。
あと3年で金婚式を迎えるはずであったが、 夫は先走りしてあの世に旅立った。
高齢化し独身者になった私は、 改めて自分の無知さを意識するようになった。
この地上にもう少し長く居させてもらったのは、「欠落している知識を埋めるためだ。」と、気がついた。
目が不自由な人が喜びそうな朗読を、 目あきである私も楽しんでいる。
今回はメキシコ関連の本の朗読だ。
両親がメキシコからアメリカに移民として移り住み、 著者は米国生まれで米国育ち。
ジャーナリストになり、 祖父母や両親の国であり、しかもアメリカの南側隣国であるメキシコに自然と興味が湧いた。
麻薬の取引問題、 不法移民問題等を積極的に記事にした。
その結果、麻薬を取り扱っているギャング団から命を狙われるまでになる。
少なく見積もっても、 メキシコからの正規の移民が500万人、不法移民が100万人を下らないと言う。
メキシコの移民の多くは、テキサス州に住み始め、縁があると他州に移動してゆくようだ。
私も、落ち着いて考えてみれば、 日本からの移民だ。
移民になろうと意識的に考えなかったが、 結果的にみれば、 やはり統計的にも、私は移民の一人で、日系新一世に分類されるのだろう。
移民の心の奥は、二つの国の間をブランコのように揺れ動くものだ。
生まれ育った国に対する愛着は当然あるし、長年実際に生活した国に対しても、感謝の気持ちは深いものだ。
ダイヤモンドヘッドを眺めながら、自分の心の底を覗き見てみた。