01,イジメ/ciguatera
イジメ/ciguatera
lyric by.母野宮子
track by.nagaco
中1の僕はイジメに遭ってた。注意をするにも意地などなかった。
ガキ大将、ここでは“K”とする。奴が中心でみんな遠慮する。
テレビの真似して嫌がる全員、Kに気をつかうひな壇芸人。
中でも僕は特にいじられた。濡れた学ラン、ジャージに着替えた。
笑いのセンスがあれば許せた。Kにはそれが微塵もなかった。
「髪型をキメるからワックス出せ」って買って来させては「早く使え」って
僕の髪の毛に塗りたくり遊ぶ。途中で飽きてワックスは取られる。
もちろん金なんか払う気もない。笑顔の傍観者は笑う気もない。
このままじゃ青春が真っ黒に染まる。黒板みたいに書くほどに白く反転したネガ。
大抵は下手だ。濡れた心がショートしかけた。
Kのつまらなさが浮き彫りになってく。上を向かないで靴紐を縛ってる。
Kが笑うとみんな愛想笑い。心を売るための会員証が無い。
甲斐性無しのKが笑った。そんな単純なことで遂に、
肝心なことが何か、気付いて同時に虫酸が走った。
イジメは僕の慣れない怒号であっけなく終わり、それが処方箋。
Kとは口を聞くことがなくなり、みんなの愛想笑いが耳障り。
僕を無視することにすら飽きて、話しかけて来るKの取り巻きへ
「なんで面白くもないのに笑うの?」って聞いてみたらみんなは黙り込むもんで。
薄々気付いてたって言うまでの辟易。気付いなかったって青天の霹靂。
軋轢を集めに僕はクラスメイトに「無理して笑う必要はない」と言い。
会員証なんて無いのに買い取り少しずつ授業中の笑いが尻すぼみ。
Kが先生につまらない冗談を言う度に誰もが凝視する教科書。
隣のクラスの授業が聞こえるくらいに静かになった教室。
Kの口数は少しずつ減り出し愛想笑いなんて僕には出来ない。
一年近く沈黙は続き、二年になった時クラスが変わり。
初めて呼吸が出来たような空気で、産ぶ声のように回り出す換気扇。
僕の頭からKが消えていなくなり、日が暮れてからまた日が昇り、
入学当初に擦りむいた膝小僧。治りかけた傷口が卒業を祝おうと、
真っ当な青春にバトンを渡してKから受けた罵倒を忘れてく。
形骸化されたKがいない世界で二年三年と過ごせたデイバイデイ。
あの時イジメを拒んでなければ屋上からこの身を空へ投げてた
Kの前ではみんな本心を隠した。Kとは違った高校へ進学した。
約何年経っただろうかと長い廊下のような放課後。
都内の大学卒業した後、中小企業に就職した後、
気の合う女性と同棲した後、同棲したまま結婚した後、
久々に夫婦で地元に帰り、懐かしさの夏を彩りたいし。
妙に味の濃い老舗のラーメン屋、妻に食わせてあげたいだけさ。
客が散らつくカウンター席、僕らは座敷、外はカンカン照り。
食べ終わった後の水の美味しさ、あの頃から見たいつもと今。
店を出るとそこにはさっきの客が居た。「俺のこと覚えてるか?」と質問をした。
その顔は記憶の底に追いやったKだった。歪んだ表情が変だった。
「俺はお前を心底恨んでる、お前にイジメられた過去が歪んでる」
妻は僕の顔を見て笑わなかった。Kが何を言ってるのかわからなかった。
「お前さ、俺の親父の仕事知ってんのか?人生をイジメるのなんて簡単だからな」
約何年経っただろうかと長い廊下のような放課後。
都内の大学卒業した後、中小企業に就職した後、
気の合う女性と同棲した後、同棲したまま結婚した後、
久々に夫婦で地元に帰り、懐かしさの夏を彩りたいし。
Kの言い方はカタギじゃないことを示して、僕の実家や家庭に怖いものを呈してく。
Kをイジメたつもりなんかさらさらない、むしろ僕の方がKよりも頭痛い。
僕らはKを振り切って自動車に乗った。二度と会わないようにアクセルを踏んだ。
バックミラーに映ったKは笑ってた。
あの時と同じように笑えなくなった。
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