夢で会えたら
「夢に大切な人が出て来たら、それはその人のあなたに会いたいって気持ちが体から抜けて、あなたの夢まで飛んで来てるのよ。」
このロマンチックな話を私はずっと信じていた。
片想いなどしていた頃は、その相手が夢に出て来ると必ずこの不思議を思い出して、嬉しくて嬉しくて仕方なかった。
惚れっぽい私は出会ったり付き合ったり付き合わなかったり別れたりを繰り返す中で、それに何度となく慰めてもらった。時には盛大に傷つく切欠にもなったりした。
一生忘れられねぇよと飲み明かした夜に、夢に出て来て何も喉を通らなくなった事もあった。
でもそれはまとめて全部時間が飲み込んだ。
悲しかった事も嬉しかった事も丸めて分厚いガラスで固められている。
結婚もして子も産まれて人生で一番平和であろう日々の中で、たまにぼんやりそれを取り出して来て眺めたりする。
そんな私の中で最近ある仮説が持ち上がった。
あのロマンチックで夢みたいな話は、優しい誰かが誰かを慰める為についたお節介な嘘なんじゃないか。
期待や不安、納得と諦めでこんがらがる中、あの人が私に会いたいと思っているという何の根拠も無い厄介な希望。
これのおかげで、これのせいで。
めいっぱいの経験をして、どんどん人は忘れていく。
忘れて忘れて何回目かわからなくなった頃には、
全部フィルターをかけたみたいに良い思い出になる。
人は忘れゆく生き物だ。
忘れるからこそのこの切なさ、
嫌いじゃない。