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小山堕突と大谷翔平


俺の名前は小山堕突(こやまだとつ)

1994年8月17日生まれの28歳
俺はあの大谷翔平を超える。今日ここで。

「光の大谷」
それがあいつの異名だ。


「煙草の吸殻を拾う。その人が捨てた運を拾うんです。」


馬鹿かと思ったが、この言葉が世界中の野球少年たちを徳積みに駆り立てた。

「俺はあいつを倒す。絶対にだ。」



ドンガラガッシャーン

試合開始前、球場のバックヤードで大きな物音がした。


「拾えよ。大谷。」




煙草の吸い殻入れを蹴飛ばした小山は大谷をにらみながらそう言った。



「なぜこんなことをするんだい?」


そう言うと大谷は腰をかがめて地面に散らばった煙草の吸い殻を拾い始めた。それに連なるように大谷のチームメイトたちも拾い始める。




「お前に徳を積ませるためだよ。徳を積みまくった完全体のお前を倒す。そうすれば俺の目的は達成する。」


(目的?なんの話だ?)


大谷がそう思っていると、チームメイトの中谷が声を荒げた。


「てめえいい加減にしろよ!こんなことさせて何になるってんだ!」

「あっ、それは」



大谷が中谷を制止させようとしたと同時に小山がほほ笑んだ。

次の瞬間、中谷の身体からオーラのようなものが消えていった。

「身体の力が抜けていく。。」

先ほどの威勢が嘘だったかのように中谷の声がか細くなった。



「これがお前らの力の秘密だ。大切な徳を積む行為を「こんなこと」って言っちゃだめだよなぁ??」


小山の言葉で大谷は気づいた。

「君はこの力について知っていたんだね。だとするとこれはチームの力を下げさせるための妨害行為ということかな?」

大谷をにらむ小山の目が鋭さを増す。

「んなことするわけねえ。今のはこの力の本質を理解してない雑魚が勝手にしたことだろ。
俺の目的は変わらない。完全体のお前を殺す。そしてこの流派をここで途絶えさせる。」


左投手の小山はグローブをはめている右手の甲を大谷に見せた。


「「徳」の字。


そうか。君はこの流派の正当な後継者だったんだね。」



小山の右手に「徳」の刺青が彫ってあった。

少し動揺した大谷はそれを隠すかのように煙草の吸い殻を拾い始めた。

「俺の家は

徳積大切過皆実施流(トクツムノタイセツスギミンナモヤロウリュウ)

の本家だ。

「すべての行いに対して徳を拾えるように」

と言いながら親は3歳の俺に徳の字を彫った。

そこからは地獄だ。嫌なことがあっても全て徳のためと言いくるめられ、その度に徹底的に叩きのめされた。

わかるか?ガキが親に歯向かうなんざ無理だ。
耐えに耐えて15の時に復讐した。


右手で積んだ徳を全てその瞬間に使い切る勢いで親を殺した。

皮肉だよな。子供のために積ませた徳が親である自分を殺すことに使われることになるなんて。」



小山の話を遮るものは誰もいなかった。



「親殺しを終えて全てを片付けた後、俺は利き手を左に変えた。


徳を積まずとも全てを手に入るられることを証明するため。親が作った俺の15年を否定するために。」


そう言って唇を噛みしめる。
怒りが収まらないのか小山の口には血がにじんでいる。


煙草の吸い殻を拾い終えた大谷は全てを理解したように小山の前に立つ。最初に口を開いたのは小山だった。



「殺さなきゃだめだと思ったのは親以外でてめえが初めてだ。大谷。」



「これまでの全ての罪を赦します。私に負けて、またもう一度徳を積んでいきましょう。小山さん。」


おわり。

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