カンブリア宮殿を見て、会社経営や働くについて語ってみたシリーズ vol.1 株式会社イトーキ編
本シリーズについて
コーチング・企業のチームビルディング支援で500セッション以上の実績を持つ、株式会社はぐくむ代表の小寺です。
このシリーズは、私が大好きな番組「カンブリア宮殿」に取り上げられた会社を事例に、はぐくむ流の組織づくりという観点から考察したことを綴ります。
本記事のポイント
2024年10月17日回は、株式会社イトーキが取り上げられました。
番組では、IT系出身の湊さんならではの「オフィス3.0」の施策や、大胆な評価制度改革が取り上げられました。
私が特に「いい会社」の組織づくりの真髄を感じたのは「コミュニケーションの質の改善」です。
前例踏襲主義の根っこにあるもの
コミュニケーションの停滞
湊さんは、会社の変革に取り組み始めた時、「前例踏襲主義」による逆風があったといいます。
前例踏襲主義は、私たちがご一緒する多くの会社さんにも共通するお悩みの1つです。「今までこうやってきた」「これがこの業界・会社のやり方だから」という発言が増え、新しいことに挑戦できないという状況です。
本当は、社員に良いアイデアや意欲がないのではありません。組織のコミュニケーションの土壌が耕されておらず、管理統制が強すぎる場所だと「声をあげてはいけない」「どうせ言っても変わらない」という気持ちを社員が持ってしまいます。
そうすると、「言われたことをやっておけばいいか」「頑張っても、しょうがないしな」と、上からの指示通りに動き、今までのやり方を踏襲する形に結果的になりやすくなってしまいます。
自分を主語に話ができなくなる
「社長が会社を変えるのを期待しています」という社員の声に対して、湊さんは「会社を変えるのは社長ではなく社員だ」と語りました。
当事者意識の欠如にも、組織のコミュニケーションの土壌が耕されていないことが関係します。自分を主語にして話す機会や自分の話を聴いてもらう機会が少ないと、人は当事者性を失い、傍観者・批評者になってしまいがちです。そういう意味で「上司が、、」「会社が、、」と、上司や会社を主語にする発言が多い場合は、注意が必要です。
コミュニケーションを活性化する
「聴く」、「対等」のスタンスを共有する
湊さんの改革では、まさにこの「コミュニケーションの土壌」を耕す行為が行われていたように感じます。
まず、その一つが社長が現場の社員と同じ目線に立ち、肩書きではなく個人として関わりあうことです。「フランクで接しやすい」という社員からの言葉がありましたが、おそらく改革の最初として「皆の話を聴く準備がある」「役割は違えど、人として対等である」ことをはっきりと示すところから始められたのではないでしょうか。重要なのは、自分が偉いのではなく、皆と一緒に話して、皆でいい会社にしていこうというスタンスを共有することだと思います。
「出してはいけない」をなくし、分かち合いを促進すること。
次に、「出してはいけないこと」をなくすこと。番組の中で紹介された湊さんの改革では2つの出来事が印象的でした。
1つ目は、「ちえくり」と呼ばれる社員から業務改善案を募る活動。ここでも、改善案を遠慮せず「出していい」こと、そして優れた案は実際に採用され、表彰されていました。「ちえくり」を通じて、業務改善が行われ、生産性が上がり、改善案が採用された社員のモチベーションが上がっている様子が放映されていました。
「もっと、こうしたらいいんじゃないか?」「さらに、こうやってみたら上手くいくのでは?」といった、普段、現場の社員が感じていることを「出していい」場や機会があること。そして、それらがしっかりと受け止められ、考慮され、良いものは採用されて、起案者は表彰される。
こうした「ちえくり」を通じて、より良い仕事をしていこうとする風土がはぐくまれていることを感じました。
2つ目は、社員の家族たちも呼んだイベントの開催です。楽しそうに会社でのイベントに参加している子どもたちを見て、お父さんがどんな会社で、どんな人たちと働いているかが分かり、お父さんの仕事に対する理解や会社に対するイメージが上がるように思いました。働いているご本人もプライベートや家族の話がしやすくなったり、お互いの仕事以外の部分の話や分かち合いが自然と促進されているのだろうと察します。
会社にプライベートを持ち込むな、ということで仕事とプライベートを切り分けて考える人たちも多いと思いますが、公私を分離して働くことは、その人が本来持っているものをフルに発揮することの妨げになることが多いものです。仕事以外の話や、仕事以外の自分の側面を「出してはいけない」と思えば思うほど、その人の「人間らしさ」や「特徴」は鳴りをひそめ、当たり障りのない関わりや働きぶりになっていく様に感じます。
「ビジネスライクなドライな関わり」から、「お互いの”らしさ”を感じあえる」関わりあいができるかどうか?ここはとても大事な観点だと思います。
若い世代のアイデアと感性
そして、「ちえくり」でも商品開発でも、若い人たちの声が取り上げられることは重要でした。湊さんの改革は従来は年功序列や前例踏襲主義の中で舞台の真ん中で活躍するチャンスが少なかった若い人たちにも機会を与えるものだったのでしょう。こうした若い世代の新しいアイデアや感性が、同社の業績改善を後押ししたのではないでしょうか。
意欲を消さない評価制度を設計する
評価制度と結びついて前例踏襲主義は定着する
上記の「コミュニケーションの土壌」が耕されている前提で、湊さんの行われた評価制度改革もまた効果的だと思いました。
以前のイトーキ社では、8割の人が「B」評価で、頑張っても頑張らなくてもあまり変わらない設計になっていました。この横並び主義的な評価制度が「無理して新しいことに挑戦しなくてもいいか」、「そこまで頑張ってリスクを取らなくても、波風を立てななければBなんだから」といった消極的な姿勢や考え方の温床になっていたのです。
そこで、湊さんは挑戦する人や結果を出した人たちがしっかりと報われる新たな評価制度を整えていきました。その結果、年収が3倍になった社員も生まれ、頑張る人が報われやすい環境・会社に変化させたのです。
それによって、今まで通りやってればいいんじゃないか、という前例踏襲主義的な発想をする人は減少し、意欲のある人がその意欲を存分に発揮しやすい、応援されやすい風土につながっていたのだと感じました。
会社は明日も行きたくなる場所になれるのか?
一方で、異なる文脈で湊さんが語っていた「なぜ1時間半から2時間かけて出社して嫌な上司の顔を見なければいけないのか」「社員は在宅でやりたいから経営者と従業員の間にギャップができる」というお話は、現代社会の「働く」ことについての重要な課題を浮き彫りにしているように感じました。
それは、まだまだ一部の人たちにとって、会社は「明日も行きたくなる場所」ではないという示唆です。
会社は、自分から積極的に行きたい場所なのか?それとも、できることなら行きたくない場所なのか?その差は、働き手にとっても、会社にとっても非常に大きいものだと思います。
そして会社は、働き手にとって「明日も行きたい会社」になれるのか?
湊さんは、イトーキの仕事を通じて会社が明日も行きたくなるワクワクする場所にするためのチャレンジをされているのだと感じました。
会社が明日も行きたい場所になるとしたら、何がその大事な要因になるのか?カッコいいオフィスや快適なオフィス、良き待遇や福利厚生など会社から与えられるものも大事な要因だと思いますが、それ以外にも、働き手の内発的な動機が問われる部分も大きくある思います。
結論:まず、コミュニケーションの土壌を耕す。そして、評価制度を整える。
今回は、「カンブリア宮殿」に取り上げられた株式会社イトーキを事例に、はぐくむ流の組織づくりの観点から小寺の考察を綴りました。
まず、組織においてどんなことも分かち合える、豊かなコミュニケーションの土壌を耕すこと。その上で、既存のやり方への改善点や、新しいアイデアを聴くこと。そして、それぞれの挑戦と努力を認め合い、讃えあうことで前に進むこと。これが、前例踏襲主義を打破し、躍動する組織をはぐくむポイントではないでしょうか。
取材・執筆 Maiko
編集 小寺 毅
おわりに:「生命的なチームをはぐくむ」技法
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