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【霜月の調べ】『サイツノAIR_失われた唄声に耳を澄ます ~別所小唄・長唄から辿る日本の近代化~』


長野県上田市にある別所温泉。そこで今から約100年前に作られた長唄「風流七久里の里」(以下、別所長唄)をめぐるプロジェクト『サイノツノ・アーティスト・イン・レジデンス 2024(略称:サイツノAIR) 犀の角×柏屋別荘倶楽部 失われた唄声に耳を澄ます ~別所小唄・長唄から辿る日本の近代化~』。

本プロジェクトでは、長野県にゆかりのある3組のアーティストと共に長唄・小唄が作られたプロセスや時代的背景、継承のされ方などをリサーチしています。11月はリサーチを深めつつ、12月の中間発表に向けての準備を行いました。

11月21日(木)エディターズミュージアム 小宮山量平の編集室


久々に犀の角に集合した月影瞳さん、藤原佳奈さん、 3日満月の権頭真由さんと佐藤公哉さん。互いに近況報告をしつつ、リサーチに向け、エンジンをかけていきます。そして一同は、上田駅にほど近い「エディターズミュージアム 小宮山量平の編集室」へ。

エディターズミュージアムでは、「週刊うえだ」の元編集長である深町稔さん、編集室代表の荒井きぬ枝さん、フリーランス学芸員の宮尾彰さんからお話をお聞きしました。上田自由大学の成り立ちから、タカクラ・テルが上田自由大学に招かれたこと、お話をお聞きする中で人気講師だったというタカクラの人となりが掴めたように感じた一同でした。

11月22日(金)別所温泉から上山田温泉へ


この日は、別所地域に古くからお住まいで、写真を嗜まれている北清昭吾さんのお宅へ。写真家・平地勲氏が別所温泉の芸妓さんを撮影している場面を目撃したという北清さん。『平地勲写真集 温泉芸者』を開きながら「これは◯◯さんだね」と当時を懐かしみつつ、別所温泉にいた芸妓さんたちの思い出を語ってくださいました。北清さん曰く、消防出初式後の懇親会に芸妓さんが来ていたとか。しかし、そのような場に呼ばれるのは、芸妓さんからコンパニオンへと時代と共に移り変わっていったそうです。


夜は戸倉上山田温泉にある亀清旅館へ。戸倉上山田に残るお座敷文化の取材として、たけしさん、たまこさん、春駒さんという3名の芸妓さんに来ていただきました。


3日満月の佐藤さんが春駒さんから三味線を借りて別所長唄を披露すると、今度は芸妓さんたちが上山田で歌い継がれる「上山田小唄」を披露。さらに長唄と小唄の違いについてや、上山田でお座敷文化が残った背景など、さまざまなお話をお聞きしました。


お座敷体験で印象的だったのは、芸妓さんたちの細やかな気遣い、そして磨き上げられた芸で人を楽しませる姿でした。特に三味線が弾ける春駒さんは、長唄や小唄はもちろん、さまざまな曲のリクエストに応えてくれました。今でこそ、カラオケが広く普及しましたが、それまでは三味線という楽器で多くの人を楽しませてきたのでしょう。そんな芸妓さんたちの姿に、本来の意味でのおもてなしの心を感じた夜となりました。


11月23・24日(木・金)中間発表に向けて


11月のリサーチ最後の2日間は中間発表の準備に取り掛かりました。藤原さんと月影さん、荒井さんは進行台本作りに、3日満月のおふたりは演奏の練習にそれぞれ取り組んでいました。


前日の11月22日、別所長唄の作曲を担当した四代目杵屋佐𠮷の曽孫である三代目杵屋佐喜さんから別所長唄の楽譜とデモ音源が送られてきました。10月のリサーチで杵屋さんにお話をお伺いした際、楽譜が存在しない別所長唄の採譜作業の協力を申し出てくださったのです。

デモ音源と楽譜をもとに練習に取り組む3日満月のおふたり。リハーサルの中で権頭さんがポツリと呟きます。「長唄の色彩がうまく掴めなくてモヤモヤしてる。このまま本番を迎えていいのだろうか」と。そんな迷いを抱えながらも演奏に取り組む姿に、制作の志村さんは「その実直さを中間発表でも大事にしたい」と思ったそうです。


別所長唄という失われた唄声に耳を傾けて数ヶ月。本家本元を再現して終わるのか。あるいはリクリエーションするのか。別所長唄との向き合い方には、まだ正解も結論もありません。中間発表を経て、多くの人々の耳に、あるいは胸に、別所長唄と、そこにまつわる物語が届くことで新しい扉が生まれるでしょう。次回は12月1日に柏屋別荘倶楽部で開催された中間発表の様子をお届けします。

文責:やぎとまちの記録室 やぎかなこ

協力:柏屋別荘倶楽部
支援:信州アーツカウンシル(一般財団法人長野県文化振興事業団)
令和6年度 文化庁 文化芸術創造拠点形成事業

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