【深まる理解と対話】『サイツノAIR_失われた唄声に耳を澄ます ~別所小唄・長唄から辿る日本の近代化~』
長野県上田市にある別所温泉。そこで今から約100年前に作られた長唄「風流七久里の里」(以下、別所長唄)をめぐるプロジェクト『サイノツノ・アーティスト・イン・レジデンス 2024(略称:サイツノAIR) 犀の角×柏屋別荘倶楽部 失われた唄声に耳を澄ます ~別所小唄・長唄から辿る日本の近代化~』。
本プロジェクトでは、長野県にゆかりのある3組のアーティストと共に長唄・小唄が創られたプロセスや時代的背景、継承のされ方などをリサーチ。現代における唄や踊りの在り方について再考を試みています。7月のリサーチでは、別所温泉にある柏屋別荘倶楽部を拠点に、別所温泉だけでなく中野市や佐久市にも足を伸ばしました。
【リサーチ開始】『サイツノAIR_失われた唄声に耳を澄ます ~別所小唄・長唄から辿る日本の近代化~』
夏のリサーチを終えた一同は、それぞれのフィールドでさらなる調査を実施。今回は各自の進捗を共有したオンラインミーティング、9月に上田で公演を行ったまつり芸能集団・田楽座との座談会、10月に別所温泉で実施した四代目杵屋佐𠮷の曽孫・杵屋佐喜さんへの取材の様子をお届けします。
9月5日(木)オンラインミーティング
オンラインミーティングでは、メンバーが各自で行ったリサーチの様子を共有。犀の角の荒井さんと志村さんからは、別所温泉で500年以上続く雨乞い祭「岳の幟(たけののぼり)」や盆踊り、佐久市望月地区の榊祭の様子が語られました。
佐久市望月地区では「別所小唄」と同時期に創られた「望月小唄」が望月小唄保存会によってしっかりと継承され、現在も広く地域住民に親しまれています。8月の榊祭では「民謡流し」として老若男女が望月小唄を踊りながら中心商店街を練り歩くということで、メンバーも民謡流しに参加。7月のリサーチでお会いした望月小唄保存会の大森睦男さんの歌声に聞き入ったといいます。
また荒井さんと志村さんは、上田市にあるEditor'sMuseum 小宮山量平の編集室を訪れ、「週刊うえだ」の元編集長である深町稔さんにタカクラテルについてお話をお聞きしたとのこと。
タカクラの人物像をはじめ、別所長唄を作詞することになった経緯、タカクラの別所滞在時に彼がどのような文学的思考を持ち、どんな作品を創作していたのか、地域住民との関係性など、さまざまな視点から深町さんと議論し、理解を深めたといいます。
編集室代表の荒井きぬ枝さんからは、理論社から出版されたタカクラの書籍をはじめ、タカクラから小宮山量平さんに宛てた書簡など、非常に貴重な資料を見せていただいたそうです。
3日満月の佐藤さんは、郷土芸能についてリサーチをする中で、約500年以上の歴史ある新野の盆踊り(にいののぼんおどり)を訪れたといいます。「郷土芸能は、不便な場所、特に東京からのアクセスが悪かったり、歴史的・地域的に中央と関係が悪いところにたくさんある。そういうところに素晴らしいものが残っていると思う」と佐藤さん。
権頭さんは、別所長唄の採譜作業について「頓挫しつつも作業を進めている」と採譜の難しさと、進捗を共有しました。それぞれのリサーチ結果や体験、考察を共有し合いながら、中間発表に向けて「別所長唄」についての理解を深めたオンラインミーティングでした。
9月27日(金)田楽座との座談会
「祭り芸能で、世界をもっと元気に!」を掲げる「まつり芸能集団 田楽座」の上田公演の前日のこと。田楽座の中山洋介さんとたちかわねむかさん、遊佐愛実さんを犀の角にお招きし、座談会を行いました。田楽座の皆さんと共に、別所長唄を聞きながら、歴史の流れや戦争、国民音楽、民謡などさまざまな視点・角度から対話を重ねた時間となりました。
中でも「なぜ別所長唄の継承が途切れてしまったのか」という根源的な問いについて、田楽座の中山洋介さんから「残るものはポップなもの。庶民が真似しやすいものだと思う」という意見が出ました。子どもから大人までわかるよう、ポップな表現を心がけてきた田楽座。庶民側からものをみつめてきたという田楽座だからこその言葉です。
【まつり芸能集団 田楽座】
1964年、長野県伊那市で創立。
日本各地の祭り芸能を「健康で明るく底抜けに楽しい」ステージとして構成、全国で公演活動を展開。活動は舞台公演にとどまらず、和太鼓・獅子舞・玉すだれなどの伝統芸能ワークショップや、伝統文化にふれるイベントなども企画・運営。
https://www.dengakuza.com/
10月10日(木)杵屋佐喜さんへの取材
別所長唄の作曲を担当した四代目杵屋佐𠮷。その曽孫である長唄佐門会三代目杵屋佐喜さんをお招きし、柏屋別荘倶楽部にて取材を実施。「杵屋佐𠮷家の歴史」や「四代目杵屋佐𠮷について」をお聞きした後、別所長唄についてじっくりお伺いしました。
「(別所長唄について)ここまで長唄に適した歌詞になっていることに驚いた。佐𠮷は歌詞をもらった時点で、曲の構成の全貌が見えたのではないだろうか」と佐喜さん。別所長唄に対する見解だけでなく、実際に音源を流しながら音楽的、技術的な解説もしていただきました。佐喜さんの解説でさらに別所長唄への理解を深めた一同、期待と意欲を高めながら12月の中間発表の準備に取り掛かります。
【三代目 杵屋佐喜】
長唄佐門会・唄方/三代目
昭和58年(1983)東京生まれ。七代目佐𠮷の次男。コンサート、歌舞伎、日本舞踊公演、TV、ラジオ出演、作詞、作曲、ナレーションなど幅広く活躍。(株) RisingWisteria 代表取締役。(X/Instagram)
https://www.samonkai.com/index.html
中間発表パフォーマンス&トークを実施します!
7月のリサーチから始まったサイツノAIR。この度、12月1日(日)に「犀の角×柏屋別荘倶楽部 失われた唄声に耳を澄ます ~別所小唄・長唄から辿る日本の近代化~ 中間発表パフォーマンス&トーク」を開催いたします。
1年目の活動としてリサーチの中間報告と別所長唄および小唄の再現を試み、そして2年目の創作活動に向けてインスピレーションを積み重ねていきます。ご家族・ご友人、地域の方など、お誘い合わせの上、お運びください。
『犀の角×柏屋別荘倶楽部 失われた唄声に耳を澄ます ~別所小唄・長唄から辿る日本の近代化~ 中間発表パフォーマンス&トーク』
【日時】2024年12月1日(日) 15:00開演(30分前開場)
【会 場】柏屋別荘倶楽部(上田市別所温泉 1640)
柏屋別荘倶楽部の駐車場はご利用いただけません。観音下観光駐車場等をご利用ください。
【チケット料金】
一般 2,000 円 U-22 1,000 円
【登 壇】月影瞳 藤原佳奈 3 日満月 荒井洋文 志村茉那美
お申し込みはこちら⬇︎
https://sainotsuno-air-2024.peatix.com/
文責:やぎとまちの記録室 やぎかなこ
協力:柏屋別荘倶楽部
支援:信州アーツカウンシル(一般財団法人長野県文化振興事業団)
令和6年度 文化庁 文化芸術創造拠点形成事業