モバイルヘルスは次のステージへ!今後テーマを考えてみる
モバイルヘルスは効果があるのか
以下の図は、PubMedで「mobile health」をキーワードに検索をしたときのヒット件数です。この傾向からも近年急速にモバイルヘルス領域の学術研究が発展してきていることがわかります。
mobile Health(mHealth)の研究がどの程度進んでいるか?というと、既に多くの疾患においてメタアナリシスという研究デザインを用いてその効果についての報告がされています。
※メタアナリシスとは、一つの研究課題や臨床課題を検討するために、過去に報告された研究論文を集め、先行研究の結果を活用しその問いに対する結果を導きだす手法です。多くの研究がすでになされている領域であるからこそこの手法を用いてその効果について検討することができているとも言えます。
既にこれだけの疾患領域についてmHealthの効果については検討が進んでおり、細部に議論の余地は残るものの一定の効果が期待できるものとして、次の議論のステップに進んでいくタイミングかもしれません。
モバイルヘルス領域において今後議論のテーマになるであろうポイント(私見)
1. 長期効果のエビデンスの不足
まず一つ目に挙がってくるのはモバイルヘルスにおける「長期効果」です。これまでの研究報告についても数週間から数カ月(多くとも6カ月)程度の介入による効果検証がほとんどです。
つまりは、モバイルヘルスによる介入については、数週間から数カ月での目的とされる結果が期待できるとされているものの、年単位での長期介入やその効果の維持については明確な根拠はまだ少ないことが現状です。
などの報告もあり、さらなる検討の余地が多分に残っているポイントです。
この背景には、mHealthがここ数年で急速に発展してきた分野であり、まだ長期効果を検討するに足る観察期間にまで至っていないということもあるでしょう。
その一方で、長期効果を考える上で課題になる要素として、2つ目でも挙げるアドヒアランスの問題があります。
モバイルアプリ自体がそもそも継続利用率の低い類のものであり、平均的なアプリの30日後の利用率は6-7%程度といった報告もあります。
また、「継続的な投薬治療」の難易度と比較しても中長期でモバイルアプリを使い続けることの難しさは想像しやすく、長期的な介入として成立させていくための議論は今後ますます活発になるものと考えています。
2. アドヒアランスの問題
モバイルアプリの効果が適切に発揮されるためにもアプリの「継続利用率」は、非常に重要な要素になります。
いくつかの研究では、モバイルヘルス領域におけるアドヒアランスの問題についての調査がなされており、こちらの研究(Robert J, et al. J Med Internet Res. 2022.)では、アドヒアランスを高めるためのポイントとして4つの項目が指摘されていました。
アプリによる行動変化や認知変化をどのような機序で起こしていくのか、これらの効果が期待できる機能・コンテンツをアプリとして提供することも大変重要ですが、加えてどのように継続してもらえるプロダクトにするのかという点も検討すべき要素になります。
お薬で言えば、飲みやすくするために薬の形状を整えたり、お薬カレンダーのように管理しやすい環境調整を行うなどと同様に、mHealthにおいてもアドヒアランスの議論は重要であると考えています。
3. レスポンダー/ノンレスポンダー
同じ疾患であれば、モバイルヘルスの効果が同じものとして現れる訳ではありません。これは、薬や他の治療法と同様にレスポンダー(効果の出やすい人)/ノンレスポンダー(効果の出にくい人)がモバイルヘルスでの介入においても存在するものと思われます。
以下は、実際に当社のモバイルアプリを活用したサービス「Mystar」利用者におけるアプリの6か月間のプログラム中の1日あたりのアプリ平均立ち上げ回数を年代別に比較したものです。
年代によっては、1日の立ち上げ回数に1回近くの差が出ているところもあります。また同じ年代の中で比較しても立ち上げ回数や入力率には個人によって差が出ますし、またもちろん効果にも違いが反映されます。
この差は何によってもたらせられるのか、デジタルリテラシーなのか、性格的なものなのか、同じ疾病においても原因となっている生活習慣や体質など機序としての違いもあるかもしれません。
各プロダクトがどういった属性を持った方に有効であるのかを紐解いていくことで、同じ疾患に対するプロダクトだとしても適応や推奨を変えることが可能になり、個別化した支援につながっていくものと考えられます。
つまりは、同じ疾患に対するモバイルアプリが一つあればいいよね!という話にはならず、そのアプリでは効果の出にくかった層に別のアプローチで効果が期待される新しいモバイルプロダクトが生み出されていくような拡がり方をしていくように思います。
4. コンテンツの質
最後に挙げるのは、モバイルヘルスにおけるコンテンツです。モバイルヘルスの強みは何といってもプロセス管理です。
例えば、ガイドラインの遵守という視点では、そのガイドラインで規定されている推奨行動をモバイルアプリを介して管理していくことでプロセス管理の質が格段にあがります。
以下は、高血圧症治療ガイドライン(2019)から高血圧症を罹患されている方に推奨される生活習慣です。こうした生活習慣の可視化、モニタリングがまさにモバイルヘルスのプロダクトに期待されるプロセス管理の内容です。
これまでの診療では、月に1回の診察等の医療機関との関わる時点での確認や指導しかできていなかったところが、点ではなく、線で疾病管理の支援が可能になります。
また、別の視点では、こうした行動変容を支える仕組みについてどのようなコンテンツ/機能をモバイルアプリに内包させるか?といった点もプロダクト開発における重要検討事項になります。
以下で紹介する研究(Aguiar M, et al. JMIR Mhealth Uhealth. 2022.)では、非感染性疾患に対するmHealth介入に対して、健康行動の変化やアドヒアランスに対して効果があった研究と効果を認めなかった研究についてどのような行動変容技法が実装されていたか?を比較しています。
このようにすでにそれぞれの行動変容技法ごとの期待される効果量についての議論は始まっており、今後さらに深まっていく論点の一つと考えています。
おわりに
いかがでしたでしょうか。もちろん今回ご紹介した「テーマ」以外にも情報セキュリティや法規制、データ利活用、サービス間連携、デリバリーなど様々なトピックスが社会実装をされていく上で議論されていくものと思われます。
まさにこれからやって来るモバイルヘルスのさらなる社会実装に向けて、どのような議論が巻き起こっていくのか?少しでも興味を持っていただけましたら幸いです。
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