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鯖がぐうと鳴いた 長編ver #5/6

第四章 溺れる鯖は藁をも掴む

     一

 隔月で開催を積み上げてきた、新座さん主催のお笑いライブが、記念すべき第一〇〇回目を迎えた。
 初期のライブでは、お客さんが一〇人に満たないこともざらにあったが、試行錯誤の末、今では立ち見が出るほどの大盛況だ。
 もっとも、キャパが一五〇程度の小さな劇場だけど。
 いつにも増して新座さんがご機嫌だった。
「マキちゃん、おはよう。今日のお客さんはラッキーだよ。シークレットゲストを呼んでるからね」
 まだ相方の姿は見えなかった。私は楽屋に荷物を置いて、シークレットゲストって誰だろうと、壁に貼った香盤表を見る。
 いつも通り、まずはゲストと新座さんによるトークショーがある。今日は真打に昇進したばかりの、創作落語を得意とする新進気鋭の噺家さん。ライブの始まりはぬるいトークから始めて、ゆっくり客席を温めていく。
 そして、お笑いライブでは珍しく、お客さんとのビンゴゲームを合間に挟む。
 景品は各芸人自腹で、あくまで笑いを取るためのネタである。今回は、相方が私のネタ帳を出品することになっていた。ほぼ、まっさらな大学ノートで、実際に私がネタ帳として使っていた物だが、ほとんどメモ書きとサインの練習にしか使っていない。
 勝手に相方が私のネタ帳を持ち出して、ビンゴの景品として出品し、それに私が怒るといった体裁を狙っている。
 そんなお遊びを挟んで、〝新座杯争奪! お笑いバトル〟と、ライブのメイン企画に続く。
 ファンが作ってくれた、紙粘土製の新座五郎像があって、新座さんの独断と偏見で優勝者が決められ、恭しくもこの像が授与される。
 私達レギュラー出演者一同にしろ、常連のお客さんにしろ、その像はオスカー以上に価値があるものとして、必要以上にありがたがるのがライブのお決まりとなっていた。そんなことも含めて、お遊び満載の楽しいライブになっていた。
 そして今回は、第一〇〇回を記念して、ビンゴ大会とお笑いバトルの合間に、シークレットゲストが用意されていた。
 私は楽屋にたむろする芸人に、誰ともなく訊いた。「このシークレットゲストって誰なんだろう」
 それに答えたのは、白鳥麗だった。私の問いと同時に楽屋入りをして、こちらに顔を向けるでもなく、ぶっきらぼうに言った。
「サクスセンシィヴだよ」
 私は驚いて白鳥を見た。慶太がこんな場末のお笑いライブに出演するのか!?

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