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鯖がぐうと鳴いた 長編ver #4/6

第三章 俎板の上の真鯖

     一

 血管を毛虫でも這いずるような不快感だった。いや、もっと硬いものがごりごりと血管を進んでいく。
 麻酔で感覚の麻痺したはずの首筋に、ときおり鈍い痛みも感じる。声を上げるほどじゃない。それでも、身体を動かさないように肩を強張らせて、顔が歪むほど歯を食いしばる。
 いったいどうしちゃったんだよ、私の躰。
 一瞬のめまいの後、椅子に腰掛けたままバイト先で昏倒した。突如とした激しい動悸が襲ってきて、ピンでも外れたように心臓が肉の内側に激しく跳ね狂う。倒れたまま胸を押さえてうずくまった。慌てたバイト仲間が一一九番に通報してくれて、そのまま救急車で運ばれた。
 緊急病棟に担ぎ込まれ、血算、生化と、至急の臨床検査が行われる。全身が脂汗でじっとり濡れていた。そして、その結果は酷薄なものだった。

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